ニッポン国力増進計画《若手記者・スタンフォード留学記 39》

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 経済活性化のために重要なのは、「輸出の拡大」「借金の削減」「労働市場の改革」「出生率の上昇」「医療・年金の建て直し」の5つです。これらの改革に今後5,6年でメドをつけないといけません。

1つ目は、輸出の拡大。

金融危機以後、日本では、「輸出依存の弊害」と「内需拡大」が叫ばれていますが、輸出が伸びること自体は決して悪いことではありません。問題なのは、輸出がアメリカの需要(対アジア輸出も最終的にはアメリカの需要であった)に偏りすぎていたことです。ですから、今後、目指すべきは、「新興国の内需向けを中心とする輸出の多様化」と「内需の拡大」です。

2つ目に、借金の削減。

約900兆円に上る借金にもかかわらず日本の長期金利は低水準が続いていますが、その理由の一つは、国内の貯蓄が多いためです(日本の国債は、郵便局、銀行、年金基金、保険会社が大半を保有しています。それらの金の大半は国民から出ているわけですから、国民が国債を買い支えているわけです)。しかし、これから高齢化の進展につれ貯蓄が減れば、金利上昇のリスクはどんどん膨れ上がっていきます。

しかも、経済学者の実証研究によると、財政政策はムダとは言い切れませんが、その効果は年々低下しています。ですから、本当に必要なところ以外にはもう金を使ってはいけない。それなのに、さほど必要でもないところに金をばらまく、今回の15兆円の補正予算は最悪です。

3つ目は、労働市場の改革。

これは、前回述べたような、メディア業界での労働市場改革をあらゆる業界で行うことです。一言で言えば、正社員と非正規社員の差を縮め、解雇規制を緩める(これは政治的に難しいでしょうが)一方、国が職業訓練などセーフティネットを充実させて、労働力の移動を容易にする必要があると思います。会社と心中しなくてすむ社会に変えることが必要でしょう。

4つ目は、少子化対策。

詳しくは、第7回を読んでいただくとして、要点は、子育てに対する補助金だけでなく、女性が出産後も働きやすい環境を整えること。もちろん男はもっと家事と育児に力を注がなければなりません(そのためには、長時間働くことを美徳とする文化を変える必要があります)。加えて、独身者を減らすためにも、早婚をブームにすること--結婚の魅力やメリットを訴えかけることも大事です。

5つ目は、医療・年金の建て直し。

高齢者の将来への不安を取り除いて、約1500兆円の資産をどんどん使ってもらうことが重要です。高齢者が人生を楽しめるサービスを充実させたり、資金を求めている若者に効果的に高齢者の資金が回るような仕組みもいるでしょう。高齢者のお金を有効に活用させていただくのです。

民主主義は数の論理ですので、高齢者はこれからの政治に強い影響力をもちます。したがって、現実問題として、高齢者を敵に回しては、絶対改革はできません。

高齢者に、いかに気持ちよくお金を使ってもらい、新たな改革を受け入れてもらうか--ビジネスでも政治でも、これからのリーダーは、高齢者とのコミュニケーション能力がより一層重要になるでしょう。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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(写真:鈴木紳平)

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