中国がアメリカとの貿易戦争どころではない事情。習近平政権は一貫して対米関係に配慮

世界を翻弄している第2次トランプ政権下の米中貿易戦争はどう着地するのだろうか。
7月末にスウェーデンで行われた米中閣僚級協議は、5月のスイス・ジュネーブでの合意内容をさらに90日間延長することで合意したにとどまった。第1次政権時の米中貿易戦争では、中国はトランプ大統領に振り回された感があったが、今回の中国はより主導権をもって対応しているように見える。
では、中国は何を考えて今回の貿易戦争に臨み、どこに導こうとしているのか。日本はそのような中国とどう向き合っていくべきだろうか。
「米中両国は共存できる」
2014年11月、習近平国家主席は当時のオバマ大統領に対し、「太平洋は十分に大きく、米中両国は共存できる」と語りかけた。その10年後の2024年4月、習主席は、訪中したブリンケン国務長官に対して「地球は十分に大きく、米中両国は共に発展し、それぞれ繁栄できる」と述べ、米中両国は太平洋を超えて地球全体で共存できるとした。
習政権の掲げる「中華民族の偉大なる復興」が見据える将来とは、アメリカに追いつき、国際社会で中国がアメリカと肩を並べる世界である。同時に中国指導部は、中国は経済発展の途中段階にあり、現時点では自国の国力がアメリカに及ばないことをよく理解している。アメリカに追いつき追い越すには今後数十年の間成長し続ける必要があり、できるだけ対米摩擦を減らし、安定した国際関係を作りたい。
そのため高原明生・東京大学名誉教授が指摘するとおり、逆説的であるが、アメリカとの競争を意識する中国は、外交面ではアメリカとの関係を安定化させようとし、対米関係への配慮が強くなる。
今回の貿易戦争においても、米中両国が相互に関税を引き上げる中で中国側は、強気な対外発信とは裏腹に、当初からアメリカ側との交渉を望んでいるというシグナルを送っていた。中国側はアメリカを批判しつつも、「協議を通じた解決を望む」と必ず繰り返したし、経済制裁の対象も中国との取引が考えられないようなアメリカ企業が中心で、象徴的な意味が大きかった。
4月上旬に米中間の関税は100%を超えたが、中旬には中国は、前回の米中貿易協議を経験している李成剛WTO(世界貿易機関)大使を国際貿易担当に任命するなど、米中協議に前向きだというシグナルを送り続けた。
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