経済・企業の「分析力」からたどる東洋経済130年史
現在も受け継がれる東洋経済新報社の精神は、創業当初から変わらない。新聞記者をしていた町田忠治によって、旬刊の『東洋経済新報』が創刊されたのは、1895年11月15日のこと。日清戦争に勝利した日本国内では、経済の近代化が始まろうとしていた。創刊の背景には、「今こそ政府に対する監督者、実業家に対する忠告者として、健全なる経済社会を牽引する経済雑誌が必要である」との思いがあった。また「東洋経済」という語には、東洋諸国をはじめとする世界経済に関する情報の提供者との意味が込められている。『東洋経済新報』では月1回、統計資料を基に貿易動向をつかむ「外国貿易月表抄」を付録として刊行。そこには早くも、現在まで一貫して続くエビデンス重視の姿勢が見て取れた。なお『東洋経済新報』は1919年に週刊化、現在も看板雑誌『週刊東洋経済』として続いており、その歴史の長さはビジネス誌として屈指だ。創刊以降も同誌は、日露戦争中の戦時財政論や講和問題に極めて冷静な論陣を張るなど、実際重視の信念をベースとした論理的・客観的分析によって政治、社会問題に切り込むことをいとわなかった。1924年、東洋経済新報社に転機が訪れる。当社社員にして、後に内閣総理大臣となる石橋湛山の主幹(後に社長)就任だ。石橋は、積極方針と経営の新展開を数々打ち出し、まさに中興の祖となる。1931年、実業家や専門家たちが集い、経済について議論するコミュニティ「経済倶楽部」を創設。また、ビジネス書籍の出版を本格化した。季刊『日本経済年報』(1930年創刊)に続き、34年には、月刊英文誌『オリエンタル・エコノミスト』を創刊。特徴の1つは翻訳調でなく、日本の政治経済に疎い外国人にも理解できる文章づくり。また、日本経済の長所短所を摘出し向かうべき道を示すことを編集方針として掲げた。結果として、諸国の同種雑誌に劣らぬ水準を維持し、外国の専門家から信頼を得た。そして36年、『会社四季報』を創刊する。四半期決算などまだ話題にもならなかった時代に、企業データの収集と独自分析に取り組み、それを事業につなげた。『会社四季報』は後に大躍進を遂げ、現在も事業の柱となっている。39年には、『東洋経済新報』の付録から独立充実させた『東洋経済統計月報』を創刊。37年の日中戦争勃発以降、第2次世界大戦に向かうなか、報道規制が本格化。政府による厳しい検閲が入り、社業は危機を迎えるも社是を守る決意をし、信念を曲げることなく『東洋経済新報』を発行し続けた。そして戦後復興の歩みが始まる。石橋が政界に進出した後も、東洋経済新報社は、社会の流れを先取りした取り組みを展開していく。56年、「記事広告」形式の広告事業を開始。今では当たり前のスタイルだが、当時は社名広告が主流で、先進的な試みだった。62年には、全国の会員に講演会を行っていた経済倶楽部のノウハウを生かし、セミナー事業を新規事業として開始した。昭和後期から平成にかけて、注目のベンチャー企業を対象にした『会社四季報 未上場会社版』(エレクトロニクス、メカトロ、バイオ、新素材、ファッション、新サービス産業など、当時急成長していたベンチャー企業を対象とし構成)や、人事担当向けの『役員四季報』、学生向けの『就職四季報』、大学を対象にした『日本の大学』も次々と刊行。さまざまな情報集積による、本格的なデータベース事業を開始し、総合経済情報企業の色を強めていった。平成の世となってからは、バブル崩壊で日本経済が停滞し、時代が大きく変わりつつあった中、1997年に大手証券会社の不正をスクープ。これが、以降の金融業界再編の幕開けとなった。経済の起爆剤となりうるベンチャー起業家に、いち早くフォーカスするなど経済ジャーナリズムとしての存在感を強めながら、出版物のデジタル化や、社会的テーマにも積極的な姿勢を示した。企業・団体の環境報告書やサステナビリティ報告書を評価すべく98年には「環境報告書賞」、2000年代初頭には「サステナビリティ報告書賞」をそれぞれ創設。また05年には『CSR企業総覧』を創刊するなど、SDGsというワードが生まれる前から、「働く環境」や「非財務情報」に目を向け、サステナビリティの促進に力を注いだ。そして21世紀初頭、東洋経済新報社にとって、もう一つの大きなターニングポイントが訪れる。ビジネスニュースメディア「東洋経済オンライン」のリリースだ。サイトの誕生自体は、「東洋経済投資クラブ」を全面リニューアルした2003年だが、2012年11月に、現在の「渡洋経済オンライン」として運営されている。以降PV、UBともに急上昇を示し、日本最大級のビジネスニュースサイトへと成長した。東洋経済の強みを生かしたビジネス、政治・経済、マーケットに関する記事と併せ、キャリア・教育、ライフスタイル関連の記事も多数掲載し、若い世代から経営者層まで幅広い支持を得ている。同年には、『会社四季報 業界地図』創刊。13年には、「会社四季報オンライン」サービス開始。『会社四季報』のデジタル化にも対応。東洋経済新報社のこうした実績を支えてきたのが、創業当時から打ち出され、その後3つの世紀をまたいで育み、受け継がれてきた、客観的で実際的な分析力だ。そのベースには、地道な取材で得たデータとエビデンスがある。そして、すべては、経済に携わる誰もが、未来の意思決定を輝かせ、活発に議論することができる「健全なる経済社会のために」という思いが源だ。この先もテクノロジーやメディアの形は大きく変化していくだろうが、こうしたケイパビリティの価値が褪せることはないだろう。既存の枠に収まらない、唯一無二のメディア企業を目指し、走り続ける。 ・東洋経済新報社130年沿革 ・東洋経済新報社パーパス ・東洋経済新報社の事業内容