ビジネスパーソンにとって「主食」級データを網羅 伝説の『会社四季報』編集長に聞く【前編】

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元『会社四季報』編集長・山本隆行氏
山本 隆行
2012年『会社四季報』編集長。13年10月「会社四季報オンライン」立ち上げに伴い初代編集長を務めた
1936年の創刊以来、四半期に一度刊行してきた『会社四季報』。全上場企業の業績分析と各種データを網羅した同誌は、株式投資のバイブルとして、あるいはビジネスパーソンや就活生の情報源として活用されている。『会社四季報』「会社四季報オンライン」などの編集長を歴任し、現在も企業やマーケットの分析に携わる山本隆行氏に、同誌の価値や活用法を聞いた。

約150人の記者が
約4000社の企業を取材

──『会社四季報』は、いかにして生まれたのでしょう?

生みの親は、1917年に東洋経済新報社に入社した小倉政太郎という人です。『会社四季報』は主要企業の過去の業績に加え、分析と今後の見通しを盛り込んでいるユニークな会社情報誌です。とくに年に4回発行する点がユニークでした。なぜかというと、アメリカで四半期決算が法令で義務化されたのは、1970年のこと。それより34年も早い、四半期決算が日本ではまったく一般的ではない36年に“年4回”発行することを決めているんです。

先見の明があったと感じます。実際に私も本誌に携わる中で、会社やマーケットの実勢をつかむには、3ヶ月に1回くらいの発刊頻度が必要であることを実感しました。

東洋経済の『会社四季報』

──これだけ分厚くて情報密度の高い刊行物を年4回出していることに、あらためて驚かされます。どのように制作していますか。

誌面の業績・材料記事などを担うのは、記者および記者経験のある編集者、約150人です。それぞれ担当する業界が決まっていて、掲載する企業が4000社弱あるので、1人平均25〜26社ずつ受け持つ形になります。

元『会社四季報』編集長・山本隆行氏
山本 隆行
1959年生まれ。早稲田大学卒業。東洋経済新報社で『会社四季報』記者として多岐にわたる企業・業界を担当し、『週刊東洋経済』では副編集長としてマーケットや投資に関する企画を担当。『オール投資』(現在休刊)編集長、『会社四季報プロ500』編集長、証券部編集委員、名古屋支社長などを務め、2024年3月退職。現在は個人投資家や、証券会社のファンドマネジャー、トレーダーなどを対象に『講演活動や執筆活動を続ける。会社四季報「超」活用術を伝授する『伝説の編集長が教える会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい 改訂版』(東洋経済新報社)発売中!

取材に関しては、担当企業の月次発表なども逐一チェックしますが、年4回出される決算短信を分析し、それをベースに会社に話を聞きに行くというのが基本の流れです。一方、誌面のデータ部分に関しては、データベース担当の部署が担います。

ちなみに記者が担当する業界は、約2年ごとに交代していきます。理由は、企業との癒着が起きにくくすることと、おおよそ20年で10業種ほどを経験して一人前に経済を語れるようになってもらいたいからです。なお、東洋経済新報社の社員記者は、必ず一度は『会社四季報』に携わるきまりになっています。

投資家へ論理的に説明する
「責任」がある

──『会社四季報』の制作で、重視していることは何ですか。

昔からずっと数字やエビデンスを元に分析を行うのが東洋経済新報社の形です。充分に取材して、それを論理的に積み上げたうえで予想する。みなさんの大切なものを投じる株式投資だからこそ、予想を当てることより、なぜこの数字を予想するのかを明確に説明する責任がある。制作には、そうした姿勢であたっていました。

それと、企業との信頼関係も重要だと感じます。

──企業との信頼関係とは?

例えば、企業へ取材する際に記者が「貴社が出しているこの数字に対して、私はこれくらい強気の見方です」などと伝えます。

それに対し、もし企業側からとくに異論が出なければそのまま誌面に落とし込む可能性が高く、逆に「ちょっとその数字はいきすぎでしょう」などと企業側から声が挙がったら再考の余地が出る。

たとえ誌面での予想が会社よりも強気、あるいは弱気であっても、それは記者の独断ではなく、多くがこうしたやりとりを経て校了しています。だからこそ、企業からよりリアルな情報や反応を引き出して誌面に反映するために、企業やその担当者との信頼関係が重要です。企業の四季報担当者は、経営企画室長だったり、あるいは社長だったりと、基本的にその会社の経営状況をよくわかっている人が務めます。

元『会社四季報』編集長・山本隆行氏
「やはり、記者も悩んだうえで書いています。自分の頭で分析し、それを会社に違うと言われたり、編集者に突き返されたり、あれこれ再考したりもしながら、ようやく活字に落とし込む。こう言うと頭が固いと言われるかもしれませんが、この部分は、まだAIでは担えないでしょうね」(山本氏)

人間が自らの足で情報に触れ、頭を悩ませて分析し、練り上げる。そうした「記事の信頼性を高めるノウハウ」のようなものが、『会社四季報』には蓄積されていると思います。

四季報を通読すると
社会の見え方が変わる

──山本さんご自身は、どのように情報収集していますか。

私は自分なりの情報収集術として、新聞やウェブ記事をスクラップして、自分なりの見出しを付けて保存しています。見出しは記事のものと違ってもよく、自分が面白いと感じたポイントを書くようにする。そして、いつでも引っ張り出せるようにしておく。記事は一度読んだだけではなかなか頭に入りませんが、そうやってスクラップすることで、情報が咀嚼されて頭の中にストンと落ちる感覚があります。

──『会社四季報』を投資家やビジネスパーソンがよりよく活用するために、心がけるべきことは?

当社が毎週刊行しているような『週刊東洋経済』などの経済誌やウェブのニュースメディアは、株式投資の目線でいえば“おかず”のようなもの。対して『会社四季報』は絶対になくてはならない情報を網羅的に集めたものでいうなれば「主食」です。それくらい『会社四季報』はど真ん中の存在で、株式投資に関わる人にはぜひ積極的に触れていただきたいです。

元『会社四季報』編集長・山本隆行氏
『会社四季報』の全ページに目を通す、山本元編集長

また投資をする・しないに関わらず、『会社四季報』はビジネスパーソンが企業分析の基礎や最新の業界動向をつかむ、格好の材料となります。まずは、企業の自己資本利益率やキャッシュフローなどの項目をチェックしてみてはいかがでしょうか。

一度、通読してみることもおすすめです。通読すると「このパターンは前にも見たな」といったことが繰り返され、儲かっている会社の要因や共通項が自然と浮かび上がってきます。通読後は世の中の見え方が、違ったものになるでしょう。とはいえ、まったくなじみのない業界のことを読むのは苦痛だと思います(笑)

なので、まずは食品企業が多い2000番台からとか、自動車会社が多い8000番台からとか、まずは興味のある業界を見てみるなど工夫してみると楽しめるかもしれません。
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