投資やビジネスに生きる、経済の捉え方とは? 伝説の『会社四季報』編集長に聞く【後編】

2012年『会社四季報』編集長。13年10月「会社四季報オンライン」立ち上げに伴い初代編集長を務めた
その会社が「何で儲けているか」をつかむ
──『会社四季報』は、投資家はもちろんのこと、ビジネスパーソンや就活生の情報源としても活用されています。同誌を読む際のコツを教えてください。
まず押さえておきたいのが、その会社が「何によって」「どれくらい」儲けているかをきちんと把握することです。
まずは【特色】欄にある事業内容や業界内のポジション、沿革などを確認、次に【連結事業】欄で売上高に占める各事業の割合や利益率を見るとつかめてきます。
とくに利益率の高さは、製品やサービスが高く売れていることの証です。代替の利きにくい技術や付加価値が求められる。「この会社の場合、それが何なのか……」そうやって一歩深掘りりすることで、その会社の実体がはっきりしてきます。投資でもビジネスでもピントがずれないように、まずはこれらを意識して読んでいただければなと。

経済情報を自身の“血肉”にするには?
──企業や経済に対する理解を深めていくにはどうしたらいいでしょうか。
経済って結局、目に見えにくいものが多いんですよね。だからこそ誌面を見て「わかったつもり」で終わらせず、意識的に動画を見たり、リアルな接点に足を運んだりすることが大切です。私も、その製品やサービスに触れられる場に行き、どんなものかを体感するようにもしています。経済を体感するためなら何でも利用してやろうという精神で、日々取り組んでいくと見えてくるものもあるのではないでしょうか。
──「会社四季報オンライン」も組み合わせて活用するといいですね。
「会社四季報オンライン」は、紙版のように次号を待つことなくリアルタイムの情報やデータを入手できます。今もAIを取り入れるなど進化を続けています。紙版を読んで浮かび上がったキーワードをオンラインで検索し、それに関連する会社をザッと把握するとか、あるいは紙版で見つけた好業績企業の取引先や販売先をチェックするといった使い方も可能です。加えて、スクリーニングもできるため、目的に沿って銘柄を抽出できる点が非常に便利です。

『会社四季報オンライン』の立ち上げに伴い、編集長を務めました。定年を迎える前の50代で、四季報オンラインの仕事を通じてITの仕組みを学べたことは、とても幸運だったと感じます」(山本氏)
求められるのはストック型経済への移行
──たくさんの企業取材をされてきた山本さんから見て、現状の日本経済をどう捉えていますか。
バブル崩壊以降、日本経済は本当に停滞し、活力がなくなったと感じます。GDPでもドイツに抜かれ、2025年はインドにも抜かれて5位に後退する見通しですが、まさにそのとおりだなという感覚です。
それに伴って、面白い会社もだいぶ少なくなってしまったなと。もちろんグローバルで大きな売り上げを上げる会社はありますが、圧倒的なブランド力で世界をリードするような会社は、ほとんど見当たらなくなってしまいました。
私は、世界を席巻する会社が日本にいくつもあることが面白くて経済の世界に入ったので、今後またそういう会社がたくさん出てきてほしいなと。
それには、「発想力」や「構想力」が不可欠であると感じています。今の延長線上ではもはやらちが明かないからこそ、「今後、日本をこうしていくんだ。だからこそ、規格外や常識外れでもいいから、これをやっていくんだ」という気概と構想力が何より会社・ビジネスパーソンには求められるのではないでしょうか。

1959年生まれ。早稲田大学卒業。東洋経済新報社で『会社四季報』記者として多岐にわたる企業・業界を担当し、『週刊東洋経済』では副編集長としてマーケットや投資に関する企画を担当。『オール投資』(現在休刊)編集長、『会社四季報プロ500』編集長、証券部編集委員、名古屋支社長などを務め、2024年3月退職。現在は個人投資家や、証券会社のファンドマネジャー、トレーダーなどを対象に講演活動や執筆活動を続ける。会社四季報「超」活用術を伝授する『伝説の編集長が教える会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい 改訂版』(東洋経済新報社)発売中!
一方でGDPの状況を踏まえると、ひたすら汗水たらして稼ぐだけでなく、ストック型経済への移行も進める必要があると感じています。ヨーロッパなんかに行ってみると、例えばスペインもフランスもベルギーもGDPでは日本を下回りますが、その暮らしぶりはだいぶ豊かに見えます。もちろん長い歴史があってそうなっている部分もあるでしょうが、やはり資産が資産を生むような仕組みがそうした状況をつくりだしているのだと感じます。
日本でも、新NISAなどによって株式投資への関心が高まっています。『会社四季報』は、投資の絶好の“材料”となるうえ、ビジネスパーソンとしての実力を高める“教材”にもなります。ストック型経済へ移行するのに役立つ経済情報がギュッと凝縮されていますよ(笑)。
今後はストック型経済の定着を通して、たとえ派手には儲からなくとも、不安なく豊かに暮らせる社会になればいいですね。
⇒『会社四季報』最新号はこちら
⇒会社四季報ONLINEはこちら
