象印「EVERINO」がオーブンレンジに革命を起こす 革新的なツインエンジン構造で期待に応える

新規参入の象印オーブンレンジが大きな反響を呼んだ
国内のオーブンレンジ市場は大手家電メーカーによる寡占状態が長く続いているが、その一角に食い込もうという勢いのある商品が現れた。象印が発売したオーブンレンジ「EVERINO(エブリノ)」だ。2022年9月に26Lサイズを発売以来、熱い反響を呼び、現在まで売上を伸ばし続けている。
新規参入の象印が支持された理由は、徹底したユーザー目線で、ニーズに応える機能の開発に集中したところにある。
「特別な料理が作れる機能を謳ったモデルは多いですが、実際のところそうした機能を使用する機会はあまりなく、使いこなしているユーザーは多くありません。それよりも、『本当に使ってもらえるレンジ』を目指して、温め性能を充実させようと考えました」と、初期段階からオーブンレンジの開発に関わり、現在もリーダーとして指揮を執る石井琢也氏は語る。

ユーザー調査では「温度ムラができる」「調理に時間がかかる」など、ユーザーが日常的にオーブンレンジを使う中で抱える不満が明らかになり、最も使用頻度の高い「温め」機能を徹底的に追求すると決めた。その結果、開発したのが、ムラを抑えて温められる新機能「うきレジ」だった。庫内に食材を置くと、レンジのマイクロ波が底部に集中し、食材の上部と下部で温度差が生じてしまう。これが温めムラができる原因だ。そこで開発チームは、マイクロ波を透過するセラミック製の専用角皿を開発。これを庫内上部に設置し、食材を入れる専用の耐熱ガラスボウルを角皿下部のレールに差し込むことで、ボウルを底面から約1cm浮かせる構造を考案した。これによりマイクロ波が底面に集中することなく、全方位から食材を加熱し、温めムラを抑えるだけでなく、調理時間の短縮にも成功した。
それに加えて、レンジとグリルを自動で切り換える「レジグリ」を開発。まずレンジで素早く食材の中まで熱を通し、その後、グリルへの自動切り換えによって食材表面を焼き上げる。これによりおいしく仕上がるだけでなく、調理時間の短縮も可能にした。時間のかかるハンバーグやグラタンも、4人分がおよそ13分※1で仕上がるという速さだ。グリルからレンジへの切り換えもできるほか、買ってきた揚げ物を時短で、しかもサクサクに温め直せる「サクレジ」も搭載した。
こうしてニーズに正面から応えたことが、生活者の心を掴んだ。22年に26Lサイズを発売後、23年に23Lサイズ、24年に18Lサイズを発売し、速いペースで商品ラインアップを拡大してきた。
そして2025年9月、世に送り出すのが、30Lサイズの「EVERINO」ES-LA30である。
2方向からマイクロ波を出力できる“ツインエンジン※2構造”を開発
オーブンレンジ市場において、金額構成比が最も高いのが30Lサイズだ。各社、技術の粋を集めた高機能のフラッグシップモデルを揃えている。「オーブンレンジ市場への参入を決めたときから、いずれは30Lサイズを開発しようと構想していました。最初の商品の発売から3年を経て、技術やノウハウも蓄積してきた。いよいよ機が熟したと思いました」と石井氏は開発の経緯を語る。
容量が大きくなることによる最も大きな開発課題は、庫内が広くなるのに比例して、温度ムラが大きくなることだ。この課題を解決せずに、象印が目指す「本当に使ってもらえるオーブンレンジ」を実現することはできない。開発チームは、他社の最上位機種を徹底的に分析し、他にはない解決策を探った。着目したのが、レンジのマイクロ波を生み出すマグネトロンだった。このマグネトロンはレンジを動かす“エンジン”だ。家庭用レンジでは1製品につきマグネトロン1つが通常だが、マグネトロンを2つ内蔵させ、マイクロ波を2方向から出力することで、加熱ムラを抑えようと考えたのだ。

センサーの精度を向上させるなど、1つのエンジンで温度ムラを抑える工夫は各社行っているが、家庭用レンジで2つのマグネトロンを搭載する“ツインエンジン構造”には誰も手をつけていない。開発は一筋縄ではいかなかった。構造設計を担当したのが、高比良整氏だ。「2つのエンジンを内蔵すると、その分スペースが必要になります。といって筐体が大きくなりすぎては、家庭用としては使い勝手が悪い。いかにコンパクトに、かつ必要な部品をすべて収めるか。数えきれないほど設計・試作し、最適な構造を模索しました」と語る。


構造設計以上に難題だったのが、2つのエンジンを使っていかにおいしく時短調理を実現するかだった。「食材や料理によって、最適な熱の入り方は異なります。ありとあらゆる食材・料理を想定し、底と奥のレンジの出力の大きさ・組み合わせを検討しました」と、金井孝博氏は語る。

この緻密な温度コントロールは、象印の最も得意とするところでもある。これまで同社は、炊飯ジャーやホットプレート、オーブントースターなど、温度制御にこだわり抜いて「おいしさ」を追求してきた。熱を加えるタイミングや熱の強さを制御する技術は、他に追随を許さない。「何より強みは、決して妥協せず、粘り強くベストを目指す姿勢にあります」と石井氏。「ユーザーが気づかないレベルでも課題がわずかに残るなら、たとえ品質や課題に問題がなくても、それを解決するまでとことん検討を重ねます。納得できるレベルに到達しなければ、世に出しません」(石井氏)。その最高を追求する飽くなき姿勢が、これまで大きなインパクトを与える商品を生み出す原動力になってきた。
高度な温度コントロール技術が可能にした4品同時の「2段あたため」
今回も“妥協を許さない開発姿勢”と高度な温度コントロール技術で可能にした目を見張る新機能がある。それが広い庫内を生かして、ムラを抑えて複数品を一度に温める「2段あたため」だ。底と奥の2カ所からレンジ加熱できる強みを生かし、下段は底のエンジン、上段は奥のエンジンで加熱することで、上段・下段にそれぞれ2品ずつ最大4品を同時に、いずれも設定した温度に温められる※5という。

開発で課題になったのが、上段・下段それぞれの温度を制御することだった。そのため開発メンバーは、従来1つだった瞬速センシング赤外線センサーを2つ搭載し、上段と下段、それぞれの温度を緻密にセンシングして、食材の温度を正確に検知させるという最適な温度制御を可能にした。これも高度な温度コントロール技術といえる。
加えて「2段あたため」に欠かせない開発が、もう1つある。それがレンジ加熱で使用できる金属製の角皿である。従来オーブンレンジに付属している金属製角皿はオーブン・グリル機能に用いられるもので、レンジ加熱では「使用不可」とされている。マイクロ波が庫内側面の金属と角皿の金属が触れている部分などに当たると、スパーク(火花)が発生する原因になるからだ。開発チームはこの克服に挑んだ。「26Lサイズの開発時にセラミック製の角皿を開発しましたが、今回『より日常的に使いやすく』を目指し、新たにレンジで使える金属製角皿の開発に挑戦しました」(石井氏)
ここでも、気の遠くなるほどの試作・検証・改善が繰り返された。「考えうるかぎりの材質や厚さ、形状を検討しました。金属が薄くなればなるほど、スパークのリスクは高くなります。かといって厚すぎると、重くて使いにくい。スパークしないギリギリの厚さを見極めつつ、軽量化を図りました。さらに金属板の両端を高耐熱性樹脂で囲う構造を考案。これにより、スパークを防ぐことが可能な金属角皿を作り上げました」(高比良)
この「レンジで使える金属製角皿」の誕生が、広い庫内を上下に分けてそれぞれの温度制御を可能にし、複数品温めの加熱ムラ抑制や、オーブン・グリル機能の革新にもつながっていく。

驚きのレンジ機能が可能にした「すごはやWレンジ」「すごはや解凍」
「EVERINO」ES-LA30では、従来のレンジ機能も驚くべき進化を遂げている。その1つ「すごはやW(ダブル)レンジ」では、冷凍食品やパックご飯などW(ワット)数を設定して温める場合でも、温め時間の短縮とムラの低減を実現した。
特筆すべきは、「すごはや解凍」だ。「開発途中で、試しに凍ったひき肉を解凍してみて、われながら驚愕しました。長年、レンジ開発に携わってきましたが、これほど早く、しかも上手に解凍できたのは、初めてだったのです」と、金井氏が明かすほど。底と奥からの絶妙な出力で全方位から食材を包み込むように加熱することで、端煮えや解凍残りを抑え、しかも従来より短時間で解凍することに成功した。「500gのひき肉が、約6分でホロホロに解凍できます。刺身の半解凍などの繊細な解凍も思いのままです」(金井氏)

毎日の料理も、特別な日のごちそう料理も思いのまま
ツインエンジン構造と金属製角皿、そして象印ならではの温度コントロール技術は、温め機能のみならず調理機能にも大きく貢献している。前機種の「うきレジ」では浮かせて温度ムラを抑えていたが、底と奥の2方向から加熱する「W(ダブル)レンジ」では浮かさずに、より温度ムラを抑え、かつ時短での調理を可能にした※7。また、レンジとグリルを自動で切り換える「レジグリ」に加え、新たに開発したのが、「すご技オーブン」だ。やはり、30Lクラスではオーブン機能も大事なところ。例えば焼き豚であれば、最初にオーブン加熱で外側を焼き上げてうまみを閉じ込め、次いで自動でレンジ加熱に切り換えて食材の内側まで素早く熱を通す。これによりローストチキンやミートローフといった「厚みのある肉料理」も、ジューシーに仕上げられるという。金井氏は、毎日使える「日常的」な料理から、「ハレの日」の料理まで、約200種類に及ぶレシピを考案。それぞれに最適な出力パターンや加熱温度、加熱方法の切り換えタイミングを導き出し、調理フローを作り上げた。

ツインエンジン構造や金属製角皿、他にも角皿にセットするスチームポケットによるスチームあたためなど、「EVERINO」ES-LA30に詰め込まれた技術は、目にしたことのない斬新なものばかりだ。「チャレンジャーだからこその強み」と石井氏。常識に捉われず、自由な発想で挑戦することが、他には真似できない機能の開発につながった。
「オーブンレンジの概念を変える商品が完成しました。これで業界にレンジ革命を起こしたい」。石井氏は力強い言葉に自信をみなぎらせる。2025年9月、オーブンレンジ業界にどのような新風を巻き起こすか、期待が膨らむ。
