変化する食卓に応える「象印 炊飯ジャー」の新境地 大ヒット作「炎舞炊き」がさらなる進化を遂げた

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圧力 IH 炊飯ジャー「炎舞炊き」(NW-FA10) 左より黒釉(くろゆう)、絹白(きぬしろ)
炊飯ジャー市場に地殻変動が起きている。2010年代は、内釜の材質や構造をいかに“かまど”に近づけるかといった「内釜戦争」が繰り広げられていた。しかし現在は「炊き方」に焦点が移行し、どのように熱を加えればおいしく炊けるかが追求されている。その先鞭をつけたのが、象印マホービンが2018年に発売開始した「炎舞炊き(えんぶだき)」だ。
炊飯ジャーの歴史を変えるイノベーションだったが、利便性がますます求められる現代の食卓に合わせ、進化を続けている。開発者にその舞台裏を聞いた。

火力の限界に挑む「炎舞炊き」の大ヒット

ごはんの炊き方に起きた大きなイノベーションを振り返ると、1980年代末に登場したIHヒーターまでさかのぼる必要がある。それまでの加熱方式に比べてIHヒーターによる加熱は大火力で、ごはんがおいしく炊けると評判になり、瞬く間に市場を席巻した。

なぜ大火力だとおいしくなるのか。ごはんの味を左右する重要な要素が「甘み」だ。ここでいう「甘み」は、お米に含まれるでんぷんを水と高温で加熱することによって引き出される。

しかし実は、もう1つ欠かせないプロセスがある。「かき混ぜ」だ。象印マホービンの商品企画担当である三嶋一徳氏は次のように解説する。

象印マホービン
第一事業部 サブマネージャー
三嶋一徳

「炊飯中にお米をかき混ぜると、お米に含まれているでんぷんがはがされて、水と熱によって、甘み成分※1に変化します。それが再びお米の表面にコーティングされることで、口に入れたときに感じる『甘み』になります。

かき混ぜる力、つまり釜内の対流をつくる力は、火力次第。IHヒーターによる炊飯がおいしく炊けるのも、高い火力で今までよりも対流を強く起こせるからでした」

IH炊飯ジャーが世に出て以降、圧力をかけて100℃を超える温度で炊飯できる圧力IH炊飯ジャーも登場した。ただ、加熱方式の基本的な構造である本体底面に搭載されたIHヒーターに手が加えられることはなかった。加熱方式のイノベーションが長らく起きなかった理由は2つある。

まず1つは、国内の家庭用コンセントは100ボルトで、電圧に限界があること。そして、圧力をかけるなどして高温にしたとしても、家庭用炊飯ジャーでは吹きこぼれを起こす危険性があり適さないことも大きかった。火力を強めて対流を起こすことには限界がある――。業界では常識になっていたこの壁を乗り越えたのが「炎舞炊き」だった。

「従来の底IHヒーターは釜全体を均一に加熱できることが特徴でしたが、釜内が一定の温度になるため、対流が起きづらい面がありました。そこで底IHヒーターを3つ配置したのが、2018年に初めて発売した「炎舞炊き」(NW-KA型)です。局所的に集中させて3カ所を順番に加熱し、釜内に温度差をつくることで、大火力かつかき混ぜる力が強い炊き方を実現しました」

大火力でかき混ぜを行う釜内のイメージ

この「炎舞炊き」の根幹を担う「ローテーションIH構造」は、約30年ぶりに起きた炊き方の革命だった。こうした独自の構造は、2021年に特許を取得※2したことからも、発想力と確かな技術が評価されているといえよう。

「炎舞炊き」は、10万円以上の高級炊飯ジャー市場で大ヒット。それまで同社の主力だった「極め羽釜」も内釜にこだわった商品として革新的だったが、それを大きく上回る快進撃を見せて、「炎舞炊き」シリーズとしては2018年のデビューから累計で45万台以上※3を出荷しているという。「炎舞炊き」の登場がいかに衝撃的だったのかがわかるだろう。

※1 甘み成分の1つである還元糖
※2 特許 第 6833440 号
※3 2018年以降発売の「炎舞炊き」シリーズ(NW-K型、NW-L型、NW-P型、NW-E型、NW-U型)国内累計出荷数(2018年7月21日~2022年4月20日 象印マホービン調べ)

とどまるところを知らない「おいしさの追求」

フラッグシップモデルであった「炎舞炊き」(NW-LA型)は2020年にリニューアルし、底IHヒーターを3つから6つに倍増。対流力をさらに上げて、ユーザーからも高い評価を得ていた。しかし、三嶋氏は早くも2020年発売時点で「もっとおいしくできるのでは」と次の開発を始めていた。

これまでの「炎舞炊き」は、釜内側に沿って下から上へ生じる縦方向の対流がとくに強かった。一方、内釜の中心部、そして横方向の対流は縦方向ほど強くない。内釜の中でお米を縦横無尽にかき混ぜるには、底IHヒーターの形状や配置を変える必要があったのだ。

試作のIHヒーターは手巻きで、一つひとつ実際に炊飯してテストを行った。開発チームは試作した中から対流の強いものをいくつか選び、実際に炊いてごはんがおいしかったものを絞り込んでいった。

「中心部の対流が弱いから中央に配置すればいいと考えて試作したら、火力が分散してかえって対流が弱くなってしまった。想定どおりにはいかずにかなり苦労しましたね」(三嶋氏)

最終的に残ったのは、中心部に寄せた底IHヒーターと、楕円状の底IHヒーターの異なる2種類の底IHヒーターにより、これまでよりも縦横無尽に激しく複雑な対流を実現することができた。

「ごはんのおいしさは、科学的なおいしさ(甘みやうま味)と、物理的なおいしさ(食感や粒感)、そして見た目(つやや大きさ)によって決まると考えています。

新しい底IHヒーターの配置は甘みがしっかり出ていて、科学的なテストや実際の試食でも当社内で最高評価でした。個人的には甘みに加えて、弾力のある食感に驚きました。これまで販売してきた中で象印のベストだと確信しました」

食味試験の様子。同社では、おいしさの値を「科学的データ」と「人間による感覚」、つまりデジタルとアナログの両方で測定する

「日常生活発想」で無洗米も冷凍ごはんもおいしく

2022年6月下旬に発売する「炎舞炊き」(NW-FA型)は対流力を向上させて、ごはんのおいしさをさらに引き出すことに成功した。ただ、おいしくなっただけではない。象印がコーポレートスローガンとして掲げている「日常生活発想」に基づき、現代家庭のニーズに合わせてアップデートを行った。

「直近は、コロナ禍で『おうちごはん』が増えており、保温時間が延びている傾向にあります。また、共働き家庭の増加が背景にあるのか、時短や利便性を求める声も増えていますね。それに伴い、無洗米を使ったり、まとめて炊いてごはんを冷凍したりする家庭が多くなっています」

どんなシーンにでもごはんをおいしく食べられるよう、同社はさまざまな機能改善を図った。

まずは、無洗米についてだ。

「無洗米って実はおいしく炊くのが難しいんですね。もともと、ぬかをはがした状態でパッケージに詰められて販売されており、そのときにでんぷんの粉が一緒に入りやすい。粉が混ざった状態で炊くと吹きこぼれやすいので、やや火力を落として炊かなければいけません。でも、火力が低いと甘みを十分に引き出せないという問題がありました」

そこで、炊飯フローを改良して高温でも吹きこぼれない構造を開発。より大火力で炊けることで、無洗米でも火力を弱めず、おいしさの向上を図った。

「冷凍ごはん」メニューが新たに搭載されたのも興味深い。冷凍したごはんをレンジで温めると、外側がベチャッとした仕上がりになりがちだ。それを避けるために硬めに炊くと、今度は水分が少なく炊飯直後がおいしくなくなる。

そこで、1.3気圧の高圧力をかけて炊くことでお米の含水率を高め、炊飯直後も解凍後もおいしく食べられるよう工夫を重ねた。

生活空間に溶け込む洗練されたデザイン

デザイン面でも消費者目線が色濃く反映された。従来の機種は本体にハンドルが付いていたが、新機種はハンドルのないすっきりとしたデザインに。生活空間に溶け込むと同時に、拭きやすくしてお手入れの負担を軽減させている。

究極のおいしさを追求しつつ、無洗米や冷凍ごはんなど日々の暮らしをいかに便利にできるかにもこだわる。ユーザーの好みに合わせて多くの選択肢を用意しつつも、タッチパネルを導入してわかりやすい画面表示にする工夫も行った。どこまでも、日々、使う人の視点に立ったモノづくりをする「日常生活発想」なのが象印流だ。

「炊き分けセレクト」では料理や気分に合わせて15通りの食感から選べる。
「わが家炊き」では、前に炊いたごはんの「硬さ」や「粘り」の感想を画面に表示されるアンケートに記入するだけで、炊き方を調整し、炊くたびに好みの食感に進化する

「おいしさを追い求めて大火力で炊ける技術を開発した結果、無洗米や冷凍ごはんもおいしく炊くことができ、火力の選択肢が広がって自分好みのごはんに炊き分ける機能も拡充できました。

新しい『炎舞炊き』のポテンシャルは非常に高い。お客様それぞれの生活習慣や好みに合わせて、おいしいごはんを楽しんでいただきたいですね」

 愚直なまでに「おいしいごはん」を追求する象印は、これからも時代に合わせてアップデートを続け、食卓で愛される製品を生み出し続けていく。

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