「コスト削減」と「コスト構造改革」の決定的な差 変革を後押しする「コンサルの活用の仕方」とは

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倉田氏と南氏
企業経営において、不可欠な取り組みの1つであるコスト削減。規模や業種を問わず重要な経営課題だが、適切に行うのは簡単ではない。20年以上にわたって企業のコスト構造改革を支援してきた、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの倉田博史氏は「100点満点のコスト削減ができている企業は、まずない」と話す。多くの企業で解決策が求められるコスト問題において、重要な視点とは。2025年5月に上梓した『究極のコスト構造改革(コストトランスフォーメーション)ケースで学ぶ 調達・投資・企業体質の強化』の内容をベースに、執筆者である倉田氏が執筆協力者の南朱音氏と共に語った。

有効なコスト削減に「欠けている考え方」

――インフレ傾向が強まる中、多くの企業が従来のやり方ではコストプレッシャーにあらがえず、コスト管理に課題を抱えています。解決の一手として、企業がまず意識すべきポイントとしてはどのようなものが挙げられますか。

倉田 まず考えたいのが、長期的にコストを抑えられる手法で推進するという点です。一律に予算をカットしたり、採用をストップしたりといった小手先の削減手法では、目先の利益は上がりますが一時しのぎにすぎず、いずれリバウンドすることとなります。組織の機能や業務プロセス、各種ルール、人材マネジメントに至るまで、ゼロベースでコストを抑制するための「構造改革」を行うことで、最終的に筋肉質なコスト体質が実現できるようになります。

EY倉田氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング
EYパルテノン ストラテジー
パートナー
倉田 博史

コスト削減を検討する際に、意外と多くの企業が陥る罠が、「大きいものだけ着手」しがちなことです。支払金額の大きい勘定科目や品目は目立つので、担当者が代わる都度、何度も削減が検討されていて、労力の割に大した効果が見込めないことが多いですね。担当者の異動や経営陣の変更の際、過去の取り組みが共有されておらず同じポイントを見てしまったり、反対に中型や小型の品目は削減ポテンシャルを抱えたまま、いつまで経っても見直しされずに放置されたりということはよくあります。

南 毎年の予算に組み込まれて自動更新されている契約ものは、支払金額が大きいものでも意外と着目されないので大きな削減余地を抱えていることが多いですね。また、主管部門や担当者が不明確でオーナーシップの低い品目は見直しされていないことがほとんどです。そうした品目を洗い出していくと、手をつけられる部分はたくさんあると考えています。

固定費削減は、企業価値向上へダイレクトに効果あり

――こうした事態が放置されてしまう要因としては、どんなものが考えられますでしょうか。

倉田 現場部門においては安定的な事業運営が優先されがちなので、少しでもリスクにつながるコスト削減は優先順位がどうしても下がってしまいます。オペレーションを安定的に遂行しようとしている現場に対してトップが「コストを下げろ」といくら言っても、現場としては「安定運用を犠牲にしてまで」とは考えられず、踏み込んだ決断まではできません。

南 「相見積もりの義務化」など、買い方のプロセス整備だけでは無駄な固定費の存在に気づきにくいというのもありますね。そもそも仕様など、調達の中身の水準がその企業にとっては当たり前でも世間の常識と外れていることが多く、その指摘を受ける機会も限られ、見直すきっかけがつかめません。

EY南氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング
EYパルテノン ストラテジー
シニアマネージャー
南 朱音

倉田 長年同じ企業の中で過ごしていると、気がつかないのも仕方がない部分はありますが、これらの無駄を放置しているのはもったいないのも事実です。とくに固定費はたとえ品目の支出規模が大きくなくても毎年無駄な支出が垂れ流されており、これらの見直しは企業価値向上にダイレクトに効果があるからです。

――まさに目先のコスト削減ではなく、現場の各プロセスをはじめとした構造的な改革が求められるということですね。そうした改革の際、最初の一歩としてやるべきこととしてはどんな内容が挙げられますか。

倉田 まず行わなくてはならないのはコストの可視化です。「どの部門がどのサプライヤーから、何をいくらで買っているのか」を明らかにしていきます。しかし勘定科目ベースだと、例えば「雑費50億円、業務委託費200億円」といった具合で、まったく実態がわかりません。

『究極のコスト構造改革(コストトランスフォーメーション)ケースで学ぶ 調達・投資・企業体質の強化』表紙
真に成功するコスト削減の極意が詰まった『究極のコスト構造改革(コストトランスフォーメーション)ケースで学ぶ 調達・投資・企業体質の強化』。20年以上にわたりコスト削減分野の最前線で活躍している倉田氏が、自身の経験を基に「コスト構造改革」の真髄についてまとめた本書。コスト削減に悩む企業担当者必読の一冊だ

南 私たちが支援する場合は、明細を1行ずつ見ていきます。それでもわからない場合がほとんどで、備考欄の文字情報もチェックしていきます。大企業では100万行を超えるデータから洗い出すので、適切なキーワードで検索しないと正しく抽出できません。そのあたりのナレッジを蓄積しているのが、私たちの強みでもあります。

倉田 このあたりは、ナレッジがないと抽出の精度も下がりますし、コンサルタントでも誰が担当するかで時間のかかり方も大きく異なってきます。ここで注意しなければならないのは、可視化自体が目的ではなく、あくまでコスト削減のターゲットを特定するプロセスにすぎないということです。つまり、労力をかけて全体を丸わかりにする必要はなく、削減対象となりえる品目だけを抽出できれば事足ります。したがって、どういう品目が「削減対象となりえる」か、ひいては「どうやったら削減できるか」まで熟知したうえで可視化しないと意味がありません。

サプライヤーやコンサルタントは「同志」

――コスト構造改革を任せられるコンサルタントを選ぶポイントや、プロジェクトを円滑に進めるために意識してほしいことは何でしょうか。

倉田 コンサルティング会社だけでなく、コンサルタントもそれぞれ得意分野が異なります。サプライヤーとの交渉代行で価値を提供しているコンサルタントもいますが、コスト構造改革のためのコンサルタントは、「交渉の代行者」としてよりも、いかに「コストを下げるケイパビリティーを向上させてくれるか」という点を見るべきでしょう。

南 コンサルティング会社からの提案書だけを見ても、コンサルタントによる違いは見極めにくいと思います。経験の深さや力量に加え、コミットメントの強さも大切なポイントだと思います。

対談風景1

倉田 コミットメントの部分で言うと、提案しているコンサルタント自身が実際にどれだけ時間を使ってくれるのかが見極めの大事な要素になります。提案書の段階でも真剣勝負する際は相当の時間を投入し、個別事情にフィットさせたものに仕上げますので、コミットメントの強さもある程度は伝わると思います。

一方、コンサルタントも人間ですので、クライアント側の依頼の仕方や対応次第で取り組む熱量が変わってくるのが実情です。提案依頼書(RFP)に落とさず、口頭やメールで雑に依頼したり、短期間での提案提出を要求したにもかかわらず結果報告は長期間待たせる、はたまた提案依頼しておきながら途中で案件自体がなくなる、といったことが頻発すると、本当に助けてほしいときに真剣に対応してもらえなくなることもあるので注意が必要です。

コンサルタントはクライアントの協力があって初めてよい結果を出せるものです。プロジェクトの成功のためには、クライアントとコンサルタントが共に目的に挑戦する同志としての関係を築くことが大切だと思います。

南 プロジェクトを円滑に進めるためには、サプライヤーとの関係性構築も重要ですね。とくに情報不足になりがちな新規のサプライヤーに対しては、何が最低の要件で何が付加的な要件なのかを提案依頼書に明確に落とし込み、併せて期待感を伝えることが重要です。

なお、コスト構造改革に取り組む際は、既存の社内慣習や軋轢も出てきますので、サプライヤーと交渉・選定する権限をプロジェクトチームに集約しておくと、スピーディーに改革を推進できます。

収益見通しが悪化したときこそ「改革のチャンス」

――コスト構造改革に取り組むべきなのは、どんな企業でしょうか。

南 規模や業種を問わず、どんな企業でも多かれ少なかれコストの問題を抱えています。とりわけ売り上げ成長を続けてきた企業が踊り場を迎えたケースでは、大きなコスト削減ポテンシャルを抱えていることが多く、コスト構造改革の意義が高いといえます。

対談風景2

倉田 ただし、コスト構造改革を実行するには大きな変化を伴いますので、一定の時間と労力が必要な点には留意が必要です。成長を続けている企業ほど、余力があるうちに改革への投資を行い、体質強化につなげています。

――最後に、コスト構造改革に関心を持つ読者の方々へメッセージをお願いします。

南 『究極のコスト構造改革(コストトランスフォーメーション)』のケーススタディーはリアルな現場感が伝わる具体的な内容で、「改革プロジェクト」に生かせるエッセンスが詰まっています。調達・購買部門など現場で日々奮闘している方はもちろん、抜本的な体質強化を図りたいと考えている経営者および経営企画の方々も、ぜひ参考にしてほしいですね。

倉田 教科書的な世界と違って、実際の現場では本当にさまざまな事件が起こります。それを疑似体験していただきたくて、『究極のコスト構造改革(コストトランスフォーメーション)』では3章と4章にケーススタディーをふんだんに盛り込みました。3年間近くにわたってコスト構造改革を支援した大手製造業の事例などは、匿名を条件に執筆の承諾をいただき、かなり踏み込んだ内容を書くことができました。

社内からは「こんなにノウハウを流出させて大丈夫なのか」と心配の声が挙がるほど、本書は実戦的な内容にこだわりました。残念ながら日本の国力が弱っている今、企業は調達も投資も上手に行うことが求められています。本書を改革に携わる方にぜひ読んでもらって、レベル向上につなげていただけたら、と思っています。

>>コスト構造改革、成功のカギとは?書籍『究極のコスト構造改革(コストトランスフォーメーション)ケースで学ぶ 調達・投資・企業体質の強化』(倉田博史著)はこちら