共同印刷社長「非印刷に重心移す」長期戦略の狙い 10年後に向けて事業ポートフォリオを変革

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共同印刷 代表取締役社長 大橋 輝臣 氏
コロナ禍によるライフスタイルの変化やデジタル化の急速な進展により、印刷業界は縮小傾向にある。こうした状況の中、創業128年を迎えた共同印刷グループが事業変革に乗り出した。2025年5月には「長期戦略および中期経営計画」を発表し、新たに経営理念と長期ビジョンを策定した。祖業の印刷業で培った技術力を生かしながら、非印刷の情報サービス業へと重心を移し、積極的な成長投資や構造改革を実行する狙いだ。同社が掲げる長期戦略について、4月に代表取締役社長に就任した大橋輝臣氏に聞いた。

紙が、より大切なものとして扱われるようになっている実感

――印刷業界全体の情勢をどのように捉えていますか。

印刷業界は幅広いので一概には言えませんが、紙の印刷が減ってきていることは間違いありません。一方、欧州では電子書籍の浸透はそれほどでもないようですし、紙媒体も引き続き支持されています。日本でも紙の文化を大切にしていきたいという方は多くいらっしゃいます。

全体として、時代とともに、紙がより大切なものとして扱われるようになったという印象を持っています。学校教育においても紙の文化は重要です。教科書のデジタル化が進むといわれてきましたが、欧州では紙媒体への回帰が起きていると聞きますし、日本では現在も紙の教科書が多くの学校で使用されています。

このように、印刷業界全体としては悲観的ではありません。ただ、すみ分けがされ始めており、さまざまな立ち位置と考え方があります。その中で当社は、紙だけに依存しないビジネスモデルへの転換を図ろうと考えています。

共同印刷 代表取締役社長 大橋 輝臣 氏
印刷から情報サービスへ重心を移し 事業ポートフォリオを変革
代表取締役社長 大橋 輝臣

――そんな中、2025年4月に社長に就任され、およそ4カ月(誌面発売時点)が経過しました。現在の率直な手応えをお聞かせください。

就任に伴う環境の変化は確かにありますが、意気込まずに自然体で職務に向き合えています。これまでも長年にわたって部門の経営に携わってきましたし、前社長の近くで仕事を見てきました。

入社して約40年のうち、半分ほどを管理部門で過ごしてきましたので、立場は変わりましたが、未知の領域に直面する場面はさほど多くありません。とくに困ることもなく、過ごせています。

10年後を意識して選択と集中を加速

――貴社には「情報コミュニケーション」「情報セキュリティ」「生活・産業資材」の3つの主要事業があります。

25年3月期の売り上げは「情報コミュニケーション」が約346億円、「情報セキュリティ」が約307億円、「生活・産業資材」が約323億円となりました。現時点では前者2つを合わせた情報系と、生活・産業資材系の売上比率は約2対1の状況です。それを今後10年で、1対1の比率にしていく計画を立てています。

情報系事業では、オリジナルコンテンツ事業の育成を進めており、いわば“川下から川上へ”進出していこうと考えています。当社はもともと、自社の書籍・雑誌を印刷するために創設された会社です。自社のコンテンツを発信するためにつくられたという成り立ちからして、今後オリジナルコンテンツ事業を育成していくのは自然の流れだと感じています。

魅力ある効果的なデザインの提案と、内容物に合わせた機能をカスタマイズするラミネートチューブは、採用実績の高い製品の1つ
魅力ある効果的なデザインの提案と、内容物に合わせた機能をカスタマイズするラミネートチューブは、採用実績の高い製品の1つ

生活・産業資材系事業では、ラミネートチューブの製造で国内トップのシェアを誇ります(同社調べ)。このシェアをさらに拡大し、強みを増していきたいと考えています。同時に、特殊印刷の技術やノウハウを生かした新しい素材や材料、機能の開発も必要です。そのためのリソースをどのように振り分けるか、考えなければなりません。

例えば、近赤外線吸収材料を織り込むことでアスリートを赤外線カメラの盗撮から守る生地、食品の酸化劣化を抑制するフィルムなどさまざまな商品が誕生しています。これらをしっかりとマーケットに提供していき、ヒット商品を生み出していきたいと思います。

左:近赤外線吸収樹脂ペレット。特殊カメラによる盗撮からアスリートを守るユニホームや、遮熱生地など、さまざまな機能性繊維製品に活用されている  右:食品の安全性向上や食品ロス削減といった社会課題の解決に貢献する「オキシキャッチ®BF」
左:近赤外線吸収樹脂ペレット。特殊カメラによる盗撮からアスリートを守るユニホームや、遮熱生地など、さまざまな機能性繊維製品に活用されている
右:食品の安全性向上や食品ロス削減といった社会課題の解決に貢献する「オキシキャッチ®BF」

――24年11月に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を打ち出されました。その背景と方針の考え方について教えてください。

23年に東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営」の要請を出したことを受け、当社も対応方針を打ち出しました。近年、当社のPBR(株価純資産倍率)は0.3~0.5倍台の水準で推移していましたので、1.0倍を指標として改善策に取り組んでいます。

まずは流動性の向上を目的に、株式について25年4月に1株を4株に分割し、少額でも購入しやすくしました。また、株主還元については、25年度からの中期経営計画において、DOE(自己資本配当率)3.5%を目安とした配当を行います。これは、前年度と比較すると倍の数字です。

また、資本効率の向上に向け、政策保有株式の一部を売却し、2027年度までに連結純資産対比15%未満まで縮減する計画です。

結果として、現時点(取材を実施した25年5月)では株価が上がり、われわれの意図した成果が出てきています。株価はもちろんマーケットによって決まりますが、会社からの情報発信も重要なのだと改めて学びました。

売上高1500億円を目指し700億円規模の投資を検討

――現在、2034年度までの10年で、700億円規模の投資を検討されています。定量的な戦略をどのように描いていますか。

10年後、売上高1500億円を目指しています。投資については、キャッシュフローを考え、逆算して出した数字です。具体的な内容はこれから詰めますが、生活・産業資材系の売り上げを倍増させるためにも、6割程度を成長投資に振り分けることになるのではないかと思います。

また、目標達成のためには、海外事業の拡大が重要です。現在はベトナムとインドネシアを中心にチューブなどの既存製品を販売していますが、新規製品も増やしていく必要があります。

その手法として、M&Aも検討しているところです。目標達成のためには、投資してから成果を出すまでのスピードも大事にしたいと思います。

――25年5月15日に「長期戦略および中期経営計画」を発表されました。ポイントを教えてください。

ポイントは2つあります。1つは、中長期それぞれの目標数値を盛り込んだことです。従来のやり方を変え、どうすれば目標を達成できるのか検討するための工夫です。

具体的には、27年度までの3年間を長期戦略のファーストステップと位置づけ、「営業利益45億円以上、ROE8%以上」という目標を掲げました。34年度時点では、「営業利益120億円以上」を目標としています。

もう1つの重要なポイントが「グループ経営理念の見直し」です。これまでの経営理念は、「印刷事業を核に、生活・文化・情報産業として社会に貢献する」でした。新たな経営理念は、「創意と熱意で新たな価値を生み出し、共にある未来を実現する」です。「印刷事業」という言葉を削除したのは、当社にとっては劇的な変更点です。

もちろん、印刷事業をやめるわけではありません。これまで培ったノウハウを生かして、印刷事業だけにとらわれず、重心を移しながら新しい挑戦をしていくというメッセージです。

さらに、経営理念の実現に向けて、10年後にありたい姿を長期ビジョンとして策定しました。それが「NexTOMOWEL 2034 共に挑もう、共に超えよう。」です。社内に対しても、若い社員を中心に、挑戦する気概のあふれる活発な会社にしたいと発信しています。

当社が持つ技術やヒトなどのリソースを強みに変え、世の中に貢献していきたいという狙いです。

10年後に向けて選択と集中を加速

創業120周年を機に誕生コーポレートブランド「TOMOWEL」

――創業120周年を機にコーポレートブランド「TOMOWEL(トモウェル)」を発表されました。

「共に良い関係を築く」という意味を込めて「TOMOWEL」と名付けました。日本語の「とも(共・友・知・智 )」と、 英語の 「WEL(Wellの古語:良い・満ちる・親しみ)」を合わせて、新しくつくった言葉です。

現場の社員とも相談を重ね、創業期に掲げられた、「共同の精神は協力一致に在り、共存共栄を理想とすべし」という当社の核となる考え方を受け継ぎました。

社内報やイベントなどを通じて、社内風土改革にもつなげています。とくに地方の製造拠点やグループ会社への広報活動は重要です。役員が出向いて社員と座談会を行うなど、ブランドの浸透を図りつつ関係性の強化に努めています。その効果もあり、ほとんどの社員がTOMOWELの説明ができる状態です。

――ご自身が普段働くうえで、大切にしていることはありますか。

昔から、直感を大切にしています。人に会ったり話を聞いたりしたときに、自分がどう感じたかを大事にしていますね。長年生きていると、判断を間違えてしまうことはいくらでもあります。でも、これまでの経験から、最初の直感を信じて進んだほうがいい結果につながることが多いと感じています。

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