ENEOS「公式アプリ」1年で会員数倍増の理由 グロースを担う、サイバーエージェントの実力

ABEMA、タップル……代表アプリの裏で重ねた
数多の失敗も「圧倒的な知見」に
――ENEOSの公式アプリは2024年5月にリニューアルしました。リニューアル前はどのような課題があったのでしょうか。
熊倉 ENEOS公式アプリは、サービスステーションでの給油の手間を2次元バーコードで解決できるのが特徴です。スマホで2次元バーコードを表示するだけでスピーディにお支払いができ、お得なクーポンも配信しています。
リニューアルの目標は、一言で言うと「もっと自分が使いやすい」アプリにしたかったということです。私自身、23年にENEOSへ入社する前からアプリのヘビーユーザーでしたので「もっとこうだったらいいのに」とよく想像をしていました。
それだけでなく、アプリの会員数を増やすにあたっては、サービスステーションのスタッフがお客様にお声がけするのですが、ダウンロード後の登録時に個人情報やメールアドレスの入力などで10分程度かかっていました。そうすると、途中で断念してしまうお客様が多く、ダウンロード数と会員登録数の差をいかに埋めるかは、大きな課題でした。

熊倉 賢太郎 氏
――その課題を解決するため、新たなパートナーとしてサイバーエージェントを選ばれています。決め手は何だったのでしょうか。
熊倉 圧倒的なアプリ開発の知見が魅力でした。ABEMAやタップルなどの成功事例はもちろんですが、失敗も数多く経験しているのが大きかったですね。「こういう機能をつけたい」といった要望をしたら「あのアプリでは●●のように進めてこうなったから、■■のように進めてはどうか」といった経験に基づいた提案をスピーディにしてくれます。
山口 熊倉さんのスピード感も、非常に早いものでした。それを痛感したのは、最初の商談のときです。全国に1万2000カ所のサービスステーションを展開し、約4000万人の顧客を抱えるENEOSは、私には巨大な「カーIDプラットフォーム」に見えました。そこで、「車をIDとする“カーライフ経済圏”の構築が、今後加速するカーボンニュートラル社会での勝ち筋になるのでは」という話をしました。
そうしましたら「そのアイデアはすばらしい。ぜひ進めていこう」とおっしゃって頂き、経営会議に上申頂き、1週間後にはその前段となるプロジェクトを正式にご発注頂いたのです。これまで多くの企業をご支援する中でも、1週間で意思決定されて物事が進んだスピード感には大変驚きました。
一方で、やりやすさも感じました。サイバーエージェントが自社サービスを開発するときのスピードも同様に速いからです。我々はサービスローンチ後の「グロース」を最も重視していますので、常に消費者の反応を見ながらアジャイルかつスピーディに進めていくカルチャーが根付いています。それと同じような感覚で取り組めると確信しました。

山口 大輔 氏
毎週モックを制作し、
1カ月で課題解決を実現
――2024年4月にパートナーシップを組んだ1カ月後の5月にリニューアルというスピード感には驚かされます。
熊倉 「使いやすさの追求」は、リニューアル時点で一気に改善しました。とくに、10分以上の時間がかかっていた会員登録は、LINEと連携させることで入力の手間がなくなり、最短1分でできるようにしたことで、登録率は跳ね上がりました。これを約1カ月で実装できたことが、会員数急増の大きな要因となっています。
このスピード感は、手数の速さだけによるものではないんです。「何がしたい」「ではこうしよう」といった会話のスピード感も大切ですし、検討内容を深掘りして方向性を確認するといったプロセスもテンポよく進めなければ、成果にはつながりません。
その点、サイバーエージェントとの取り組みは、期待以上のスムーズさでした。週1回、1時間の定例ミーティングを行うのですが、モックアップをベースとするので議論がしやすいですし、そこで決まったことが翌週のモックアップに反映されます。内容も数パターン、幅のあるものを出してくれるので、おのずとブラッシュアップされますし、気持ちよさすら感じられます。
山口 我々のこれまでの実績からも、仮説からクイックにテストを行い、消費者の反応を見ながらスピード感もって改善を繰り返すことが中長期で大きな効果に寄与することが分かっています。そのためには有識者がすり合わせをスムーズに済ませ、改善量を担保することが必要なのです。
なので検討段階でできる限り早く意思決定ができるよう、モックでイメージをすり合わせることが効果的だと考えており、独特なプロセスを踏んでいます。最終意思決定者である熊倉さんが時間をとってご自身の目でモックをご確認頂いている点も非常に大きいと感じます。
――モックアップの制作には、通常それなりの時間がかかります。毎週更新というハイペースで数パターン出せる理由は何でしょうか?
山口 先ほど熊倉さんがおっしゃったように、サイバーエージェントにはABEMAやタップルなど、日本を代表するサービスがいくつもありますが、その裏には数百個の失敗もあります。それだけヒット施策や失敗施策のナレッジを中で蓄積できていますので、何をすれば効果が出せて、何をすると失敗するのか、瞬時に先回りした提案ができます。
また「いいチームがいいサービスをつくる」という信念でチームをつくっています。プロジェクトマネージャー、リサーチャー、デザイナー、エンジニア、データサイエンティストなどが自分達の役割を越境してサービスに向き合うことで、サービスへの当事者意識が生まれ、各々の専門性からサービスをブラッシュアップしていくことで、結果的にスピードとクオリティが上がっていきます。我々はそういうチームづくりをしていて、採用や育成においても、こういったチームワークへの適正はとても重視しています。
そうしたサイバーエージェントグループ数千人が日常の業務で培ってきた集合知が、高いパフォーマンスを発揮できている理由だと考えています。これらは自前でサービスを運営していないと分からないですし、他社には提供できない価値だと思います。
熊倉 先ほど述べたように、ENEOS公式アプリのヘビーユーザーとして自分の感覚を大切に開発に取り組んでいます。誤解を恐れずに言えば、まずは安全性はあまり気にせず、自分が使ってうれしいと思うものを起案しているんです。すると、逆にサイバーエージェント側が「ユーザーテストで問題がないか検証したほうがいい」と適切なブレーキをかけてくれるんですね。とてもいい関係を築けていると思っています。
山口 つねに「ワクワク」と「安全性」を重視するのが私たちの方針です。ワクワクできて、かつ安全なものでなければユーザーは使ってくれませんので、バランスよく両立させることにはとりわけ留意しています。熊倉さんのアイデアはとても挑戦的でワクワクする内容が多いので、私たちもそれを成果に繋げようと様々な角度から提案を続けることができています。
「便利なアプリ」から
新たな価値創造の基盤へ
――2025年1月に、ENEOS公式アプリの会員数は1500万人を突破しました。「マイカー機能」を追加し、カーライフをトータルサポートする次世代アプリへ進化させていくことも発表しています。
熊倉 はじめの提案でピンときた「カーライフ経済圏」の方向へ着実に進んでいます。便利でお得な給油アプリにとどまらず、例えば、メンテナンスや保険、自動車税や車の売買まで、車に関することをENEOS公式アプリですべて解決できる世界をつくっていきたいです。
すでにカーメンテナンスの予約機能は搭載済みで、数千万以上のアクセス実績があり、一定数の送客が実現しています。蓄積したトランザクションデータを利活用したビジネスの創出も検討しています。
山口 3年以内に「カーライフ経済圏」として新たなモビリティの価値を創出したいというのが、熊倉さんとすり合わせている計画です。実現のためのロードマップを作り、順次取り組みを進めてきました。今のところ、計画どおりに進んでいます。
熊倉 山口さんと出会うまでは想像もつかなかった未来ですが、1年足らずでその道筋が見えてきました。給油が月に1回という会員の割合が50%を超えるなど、お客様の裾野が広がってきたことにも手応えを感じています。
最近は、サービスステーションでENEOS公式アプリを使うお客様の姿を、当たり前のように見かけるようになりました。給油やメンテナンスの比率など、さまざまな指標をモニタリングしながら効果的な施策の検討をサイバーエージェントとともに進めてきた成果です。
山口 我々は消費者の皆様が便利に使っていただけるUIUXと、ローンチ後のグロースをとても重視しています。それを考え抜いて改善し続けないと、デジタルでは生き残れないという危機感を持っているからです。
高度経済成長期は世界の時価総額ランキングのトップ企業は日本企業が多くを占めていましたが、今はアメリカを中心にほぼ海外のビックテックが占めている状態です。これはデジタルという波をチャンスと捉え、顧客利便性を追求してきたかどうか?が大きな差になっていると思っています。
そうした中で、デジタル生まれデジタル育ちのサイバーエージェントだからこそ、提供できることは多いと感じます。生成AIのような急速に進化するテクノロジーへの対応も含め、随時取り組みをアップデートさせてスピーディに顧客体験へ繋げていきたいと考えています。
熊倉 サイバーエージェントとの取り組みを通じ、スピードと知見を持つパートナーとの協業がいかに事業成長のスピードを上げるかを痛感しています。AIの話が出ましたが、今後もテクノロジーが急速に進化することを踏まえると、今まで以上にスピード勝負になると感じています。目まぐるしく変化する環境の中で生き残っていくためにも、サイバーエージェントとともにENEOS公式アプリを軸にしたお客様との双方向コミュニケーションを拡充させ、さまざまな形でマネタイズをしていきたいと思っています。
⇒お問い合わせはこちら
