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葉山町「いわく付きの場所」でホテル開発を可能にした手口。法律には明記されていない「道の幅」の計測方法を独自解釈してみせた設計会社

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ホテルに向かう道路。最も狭い箇所は道幅が実測値で3.79mしかない(2025年11月、編集部撮影)
皇室「御用邸の町」として知られる神奈川県葉山町。時間がゆったりと流れる海辺町に魅了される人は今も昔も数多く、ある不動産会社が実施した「住み続けたい街ランキング」首都圏版では5年連続でトップに立っている。
ところが今、その町が揺れている。ある住民が「葉山の豊かな日々が消し飛ばされた」と憤激するその原因は、海岸線沿いに建設された豪奢なホテルだ。住民が建設に強く反発する理由は一つや二つではなく、無数にある。怒りの矛先は事業者、設計会社、葉山町、神奈川県にまで向けられている。
葉山の波は鎮まるのか。ジャーナリスト、田中周紀氏による連載企画「波乱 御用邸の町『葉山』住民の憤激」第2回は、本来なら大規模開発が許可されるはずのない場所にホテルを建てるため、設計会社が使った手口を取り上げる。
第1回 御用邸の町「葉山」の豪奢ホテルに住民が憤激
第2回 葉山町「いわく付きの場所」でホテル開発の手口(本記事)
第3回 coming soon

前景に江の島、背景に富士山がそびえ立つ葉山町の絶景スポット、森戸海岸(葉山町堀内)。アパレルメーカー、トゥモローランド(東京都渋谷区)の佐々木啓之代表取締役会長(78。以下、啓之氏)は2017年7月15日、同伴した知人の建築家兼インテリアデザイナー、パトリシア・ウルキオラ氏がその雄大な景観に魅了される姿に触発された。「この場所にホテルを造ろう」。啓之氏はそう決めた。

前回述べたとおり、トゥモローランドは持ち株会社ティ・エム・エル名義で07年8月、森戸海岸に面した堀内字葉山に計4筆、約997㎡の土地を購入。その2年4カ月後の09年12月には関連会社アシタバの名義で、この北側に隣接する計2筆、約1・9㎡の小規模な土地を購入し(このときは前述の土地もアシタバが購入して名義変更)、13年4月からはここでビーチラウンジ(カフェ)「CABaN TOMORROWLAND」の営業を開始していた。

いわく付きの場所だった

それから3年7カ月が経った16年11月、トゥモローランドは前述した約997㎡の土地の南側に隣接する約941平方メートルの土地をティ・エム・エルの名義で購入する。実はここ、東京のゲームソフト開発会社が14年9月に購入してホテル建設をもくろんだものの、近隣住民の強硬な反対を受けて断念。北隣でカフェを営業していたトゥモローランドがこれを買い受けるといういわく付きの場所だった。

ともあれこの時点で、トゥモローランドがグループ会社名義で取得した森戸海岸沿いの土地は計約1940㎡に上り、すでに最終的なホテル敷地面積と同等の広さになった。実は啓之氏は当初、ここに同社の保養所を建てる考えだったという。

だが、眼前に広がる海に沈む夕日と、浮かび上がる富士山に感動するウルキオラ氏に触発された啓之氏は、盛況だったカフェを閉じて本格的なリゾートホテルを建てると決断。ウルキオラ氏とその構想を練るとともに、遅くとも18年前半には設計業界5位の久米設計(東京都江東区)に現地の道路の幅などに関する調査を依頼して、同年10月末にはカフェを閉店した。

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