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葉山町「いわく付きの場所」でホテル開発を可能にした手口。法律には明記されていない「道の幅」の計測方法を独自解釈してみせた設計会社

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ゲームソフト開発会社がホテル建設計画を断念した理由の1つは、ここを通る町道の幅の狭隘(きょうあい)さにあったものとみられる。本連載第1回で述べたとおり、明治時代に政財界の要人や陸海軍の将官、作家らが競って別荘を建てた葉山町には、幅4mに満たない箇所が数多く存在しており、この町道も狭い一方通行だ。

とりわけ大手画廊、日動画廊(東京都中央区)所有地の左横はクランク状になっていて、葉山町都市経済部道路河川課が作成した道路境界確定図によると、日動画廊所有地の左側に立つ石積みの塀の角(この部分のみコンクリート製)と、町道を挟んで向かいの住宅の右側に立つブロック塀の角との距離は、実測値で3・79mしかない。

建築基準法第42条は原則として幅4m以上のものを道路と定めており、これに2m以上接する敷地でなければ建物は建てられない。幅4m未満の道路に面した土地に建物を建てようとすれば、原則として道路の中心線から2mの地点まで後退(セットバック)させる必要がある。そのためには日動画廊または向かいの住宅と交渉して塀の立つ部分を購入し、セットバックさせることになる。

ホテルはもう建たないと喜んでいた

ある近隣住民は「2度開かれた住民説明会でわれわれが強硬に反対すると、ゲームソフト開発会社はホテル建設をあっさり断念してしまった。今になって考えると、あの場所にホテルを建てるにはそうした手間暇がかかる実情を把握していたとしか考えられない」と振り返る。

また、近隣住民によると、森戸海岸の砂浜からわずか30mの所を走るこの町道はそもそも、高齢者を始めとする近隣住民が森戸海岸の散策に利用する生活道路。通行量の多さにもかかわらず歩道が未整備の県道の補助道路でもあり、子ども連れの若い母親たちも利用するという。この近隣住民が述べる。

「町道は県道に突き当たる出口の所まで一方通行の上、その出口の道幅も約3mと狭く、普段は車両が通るような道路ではありません。子供連れや高齢者、観光客などが真ん中をのんびりと歩く安全な道路でした。それに山が海に迫った地形の葉山町でいったん火災が起これば、相模湾からの海風で延焼し、今月18日の大分市佐賀関町の大規模火災の二の舞いにもなりかねない。そのためにもあの狭い町道は住民のために確保されている必要があるのです。ゲームソフト開発会社がホテル建設計画を断念してくれたとき、私たちは『ここにホテルはもう建たない』と喜んでいたのですが……」

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