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御用邸の町「葉山」で強引に進められた高級リゾートホテル建設計画、海岸線沿いの豪奢なホテルに地元住民が強く反発する理由とは?

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トゥモローランドのホテルが立つ葉山町の森戸海岸
皇室「御用邸の町」として知られる神奈川県葉山町。時間がゆったりと流れる海辺の町に魅了される人は今も昔も数多く、ある不動産会社が実施した「住み続けたい街ランキング」首都圏版では5年連続トップに立った。
ところが今、その町が揺れている。ある住民が「葉山の豊かな日々が消し飛ばされた」と憤激するその原因は、海岸線沿いに建設された豪奢なホテルだ。住民が建設に強く反発する理由は一つや二つではなく、無数にある。怒りの矛先も事業者、設計会社、葉山町、神奈川県にまで向けられている。
葉山の波は鎮まるのか。ジャーナリスト、田中周紀氏による連載企画「波乱 御用邸の町『葉山』住民の憤激」の第1回は、事業主トゥモローランドの事業計画の話から始まる。

今年で町制施行100周年を迎えた湘南の御用邸の町、神奈川県葉山。前景に江の島、背景に雄大な富士山がそびえ立つ絶景を堪能できる森戸海岸は、ヨットとウィンドサーフィンの聖地としてもつとに知られた海水浴場だ。その北端で1964年に開業したヨットハーバー「葉山マリーナ」は、日本のヨット発祥の地とされる葉山町のランドマーク的存在。石原裕次郎の『狂った果実』や加山雄三の『若大将シリーズ』など、昭和の青春映画そのものの世界がリアルに広がっている。

ヨットとウィンドウサーフィンのメッカ。遠景には富士山(編集部撮影)

1894年に設置された皇室の「御用邸の町」として名高い葉山だが、もともとは明治時代に政財界の要人をはじめ陸海軍の将官、学者、芸術家たちが競って別荘を建てたリゾート地である。森戸海岸周辺の道路にも、幅4メートルに満たない狭隘(きょうあい)な箇所が数多く存在しており、近隣住民は“憧れの町”に大型車で乗り付ける新興富裕層や訪日外国人観光客の粗暴な運転、無断駐車等に憤りを感じながら暮らしている。

住民170人が反対する中、建設着工

その森戸海岸の一等地に、「TOMORROWLAND」などのブランドで婦人服や紳士服を製作・販売しているアパレルメーカー、トゥモローランド(東京都渋谷区)が高級リゾートホテルの建設を企てた。

佐々木啓之代表取締役会長(78。以下、啓之氏)の発案を受けて、遅くとも2018年前半にはホテル建設に向けた準備を始めた同社は、その後の葉山町や神奈川県との折衝を経て、22年9月末に神奈川県から開発許可を取得。宿泊客らが利用する町道の狭隘な部分が解消されていないとしてホテル建設に異議を唱える近隣住民170人の反対を尻目に、23年2月上旬、「Casa CABaN HAYAMA」(カーサ キャバン ハヤマ)の建設工事に踏み切った。

反対の声を尻目に建設に踏み切った(編集部撮影)

ところがその後、トゥモローランドが葉山町と開発協議に関する協定書を交わすまでの行程や、同社が神奈川県から開発許可を取得するまでの行程に不審な点があることが、近隣住民の情報公開請求によって判明してゆく。さらに葉山町が同社に示した“優遇措置”や、近隣住民に配慮することなく強引に進められる建設工事の騒音などに対し、住民側の不満がついに爆発。その結果として24年10月以降、葉山町の仲介で同社側と近隣住民側との2者協議が定期的に持たれることとなった。

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