ニッポン国力増進計画《若手記者・スタンフォード留学記 39》
むしろ現実的に可能なのは、「相手の勢いを強めるような政策」を止めることです。
1つの例がODAです。
ODA自体は日本外交の強力な武器なので、総額自体は減らす必要はありません。ただし、もっと日本に好意的な国、戦略的に重要な国、政府の腐敗度が低い国をターゲットにしないと、砂漠に水をまくだけになってしまいます。
日本の対中国ODAは、2008年度に終了となるまで、累計で約3.5兆円に達しています。フリージャーナリストの青木直人氏によると、アジア開発銀行など第3者機関を経た日本の援助額は累計6兆円を超え、アジア開発銀行を通じた対中援助はこれからも続いていくそうです。
2カ月前、北京に旅行したときに驚いたのは、その空港の豪華さ(成田より数段上)と、地下鉄の新しさ(アメリカ人の友人が感心していた)でしたが、その建設費の一部が日本のODAから出ていると知って、複雑な気持ちになりました。
外務省のホームページによると、空港整備に300億円、地下鉄整備に197億円--隣国で、かつ、財政が健全で、軍事面でも経済面でも脅威になりうる国の基幹インフラ設備のために大金を援助する--そんなお人よしの国はどこにあるのでしょうか。そんな金があれば、日本で苦しんでいる人を助ければいいのに...
2002年の時点で、元駐日大使のアマコスト氏が「不況に苦しんでいる日本が、なぜ経済成長著しい中国にODAを与える必要があるのか」と疑義を呈していますが、それも無理はありません。
たとえば、アメリカも、ブッシュ政権下でODA政策の改革を行っています。以前、その政策を担当したスティーブン・クラズナー教授に話を聞く機会がありましたが、改革のポイントは「ODAの金額を増やす一方、援助国の選定にあたっては、政府の健全性(腐敗度、人権、法の支配など)に関して、厳しい基準を設けた」という点です。安全保障上の重要性が低い国に対する支援では、政権の健全性をより重視するようになっているようです。
腐敗している政府に金を援助しても、それが本当に国民のために使われるかはわかりません。それなのに日本は、賄賂がはびこる中国に、じゃんじゃんカネをばらまいてきたわけです。
一番大事なのは、経済の再活性化
第3のオプションは、自国経済の再活性化。言うまでもなく、これこそ王道です。
経済力が回復すれば、それにつれて、軍事力の拡大も可能になります。逆に言うと、「軍事力の拡大」「ライバルの弱体化」というオプションはあくまで経済・政治改革のための時間を稼ぐための方策で、日本の抱える問題を長期的に解決することはできません。