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キーマンが苦言「中小都市で5000席規模のアリーナを造るなら、そこを新市街地にするぐらいの考えでないと未来の世代に迷惑がかかるだけ」

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スポーツ産業政策学の第一人者である間野義之氏に話を聞いた(写真:びわこ成蹊スポーツ大学提供)
日本各地で建設が進むアリーナ。その光と影を現地取材で検証してきた連載の第4回は、スポーツ産業政策学の第一人者である間野義之・びわこ成蹊スポーツ大学大学院スポーツ学研究科長・教授へのインタビューをお届けする。政府が進める「スタジアム・アリーナ改革」の議論に当初から携わってきたキーマンは、「中小都市で5000席規模のアリーナを造るなら、そこを新市街地にするぐらいの考えでないと未来の世代に迷惑がかかるだけ」と警鐘を鳴らす。

――現在の「アリーナ建設ラッシュ」の背景は。

スポーツ振興やスポーツ施設のあり方を考えてきた我々にとって、転機となったのは2002年のサッカー・FIFAワールドカップ日韓大会。あのときに造ったスタジアムは批判的に見ざるをえなかったからだ。

短期集中連載の第4回をお届けします

単純なコンクリートのドーナツみたいなものをたくさん造り、当時はJリーグで年間17試合しかなかったサッカーのために莫大な税金を投入した。それが本当のスポーツ振興になっているのだろうかと。

その反省の中で、日本政策投資銀行が次の政策投資はスタジアム・アリーナだとして2012年に「スマート・ベニュー研究会」を立ち上げ、私(当時は早稲田大学スポーツ科学学術院教授)が座長を引き受けた。「スマート・ベニュー」とは、街づくりの核となる多機能複合型施設を指す造語で、特にスタジアム・アリーナに注目して国内外の事例を研究・提言した。

ちょうど東京オリンピック・パラリンピック招致が決まる1年ほど前だったが、2019年のラグビーワールドカップの日本開催は決まっていた。ラグビーワールドカップとオリンピックが連続で同一国に来るのは世界でも初めて。それに気づいた政府がスタジアム・アリーナを活性化し、投資する対象として見始め、2015年に設立されたスポーツ庁が経済産業省と一緒に「スポーツ未来開拓会議」を開く流れになった。

スポーツ関係以外の企業も注目

――当時はアベノミクス全盛の時代でもあった。

スポーツ未来開拓会議でも私が座長を務めたが、2012年に5.5兆円規模だったスポーツ市場を2025年に15兆円に拡大するという目標を掲げ、そのための一丁目一番地が「スタジアム・アリーナ改革」だという議論になった。

それを受けて、安倍政権下で最上位的計画であった「日本再興戦略」の2016年版に「スポーツ・文化の成長産業化」が初めて盛り込まれた。そこからスタジアム・アリーナ改革や民間資金調達のガイドライン策定など、いろんな動きが一気に進んだ。

だから「アベノミクス全盛期に号砲が鳴った」という表現は、まさにその通りだと思う。これまで日本で陸上競技場や体育館は国体(国民スポーツ大会)向けに地方自治体が税金で造るもので、利益を生まない「コストセンター」だと思われていた。それが民間の投資対象、つまり「プロフィットセンター」にもなり得ると、スポーツ関係以外の企業も注目し始めたのがこのころだ。

同時に2016年にはプロバスケットボールのBリーグが開幕し、2018年にはプロ卓球のTリーグが始まった。すると国体のように単に「するスポーツ」ではなく、「観るスポーツ」としてスタジアム・アリーナに客を入れ、客単価を上げてお金を落としてもらうエンターテインメントとしての機運も高まった。

北海道の「エスコンフィールド」は、土地は北広島市のものだが、スタジアムは日本ハムグループによる民設民営。長崎県の「長崎スタジアムシティ」は、ジャパネットグループが土地(三菱重工業長崎造船所跡地)から買ってしまった。これまではPFIなどによる「公地・民設・民営」までだったが、とうとう「民地・民設・民営」まで来たということだ。

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