メガバンクに勤務している40代後半の男性は、最近、気分がふさぎがちだ。50代を目前にして、将来のことが急に見通せなくなってしまったからだ。
というのもコロナ禍以降、メガバンクが相次いで抜本的な人事制度改革に乗り出し、これまで“拠り所”としてきた銀行の常識が次々と覆されているためだ。
詳細は本特集でお伝えするが、その1つが年齢や勤続年数に応じてポジションや給与が上昇する「年功序列」からの脱却だ。
背景にあるのは、昨今の世界的な潮流である「人的資本経営」だ。人材を「資本」と見なし、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値の向上を目指す経営のあり方で、日本でも2020年9月に「人材版伊藤レポート」が公表されたことで注目を集めている。
そうした人的資本経営に取り組んでいる企業は市場でも評価されるとあって、メガバンクも積極的に取り組む。人的資本経営を推進するには働きやすい職場環境が必須。そのためメガバンクは年功序列から脱却し、役割(ミッション)の難易度や重要度に応じて等級(グレード)を決定、その成果に基づいて評価や報酬を決定する「役割等級制度」に移行しているわけだ。
評価制度についても、「ポストは自らの実力で奪いにいくべし」といずれのメガバンクも公言しており、 年齢や勤続年数などにかかわらず実力で評価する方向へとシフトしている。
これまでであれば、一定の年数を大過なく過ごせば部長や支店長になるのも夢ではなかった。だが、こうした改革によって、専門性が評価される傾向が強まっており、「この年でいきなり専門性を高めろと言われても……」と男性は嘆く。
人手不足で出向も縮小
悩みの種はそれだけではなかった。銀行界では役員などに昇格できなかった管理職は、50代前半で関連会社や取引先企業などに「出向」するのが常識とされてきた。幹部クラスの「キープヤング」を図るのが目的だ。そのため男性も、数年後には出向せざるをえないだろうと覚悟していた。



















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