自動車用バッテリーに使われている鉛が人々に害を及ぼしていると、内気なオーストラリア人弁護士フィリップ・トインがデトロイト近郊のフォード・モーター本社で同社幹部に警告したのは2005年のことだ。
鉛は自動車のバッテリーに不可欠な物質だが、有毒でもある。需要の増加に伴い、自動車業界はリサイクルされた鉛の使用量を増やしたが、世界の多くのリサイクル工場は有毒な煙を地域社会にばらまいていた。
記録によると、トインは解決策を提案した。検査官がクリーンな操業を行っている工場を認証するプログラムだ。それにより自動車メーカーとバッテリーメーカーには、環境に配慮したサプライヤーからのみ調達していることを売りにできるマーケティング上のメリットももたらされる。
だが、提案は実現しなかった。
子どもたちの血液から鉛が検出
ニューヨーク・タイムズと、グローバルな保健問題を扱う非営利メディアであるジ・エグザミネーションが共同で調査したところ、アメリカ企業に販売する鉛をリサイクルする過程で、アフリカの工場が健康被害を広げていることがわかった。調査の一環として委託された検査では、ナイジェリアのラゴス郊外にある工場群の近くに住む子どもたちの血液から、生涯にわたって脳障害を引き起こす可能性のあるレベルの鉛が検出された。
フォードを含む大半の自動車メーカーは、サプライヤーによる法令と企業行動規範の順守を信頼しているとして、調査結果についてのコメントを控えた。フォルクスワーゲンやBMWなど、ごく一部の自動車メーカーは、社内調査の開始を約束した。
しかし、記録のほか、業界幹部、健康・環境保護活動家に対して行った取材からは、自動車メーカーとそのサプライヤーは、リサイクル業者が廃バッテリーを溶解する際に鉛を大気中に放出していることを30年近く前から認識していたことがわかっている。



















