
嵐やゆずなどの人気アーティストが登場し、約6万人が集まった会場は熱気に包まれていた。
2019年12月21日、国立競技場。デジタルサイネージに文字が流れ、屋根には照明が光る。前方の席で大成建設の八須智紀さんは特別な思いでステージを見つめていた。
「スピーカーの反響音や周りで楽しむ観客など盛り上がりを五感で感じられた。国立競技場に魂がこもり、まさに火が入ったような感じがした」
東京五輪の舞台として、世界から注目を集めた国家プロジェクト。大成建設は、旧国立競技場に続いて施工者となった。八須さんは作業所長として、現場のマネジメントや社内外の調整、交渉といった役割を担った。
整備費高騰で白紙撤回された「ザハ案」で準備
八須さんが国立競技場に携わったのは2013年ごろにさかのぼる。建築家のザハ・ハディド氏のデザイン案を基にした、施工者の選定を見据え、社内で準備を始めた。国内外のスタジアム・アリーナを文献などで調べて情報を集め、国立競技場を造る際の技術や考え方などを研究した。
2014年には、大成建設がスタンド工区、竹中工務店が屋根工区の施工予定者となった。が、屋根を支える巨大な2本のアーチなどザハ氏のデザインで建設した場合には整備費が大幅に膨らむことが判明し、批判が集まる。
「計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直す」。2015年7月、安倍晋三首相(当時)がそう表明し、整備計画は仕切り直しとなる。
「残念だった。正直、ザハ氏の形は日本にもなく、いち技術者としてやってみたかった」と八須さん。白紙撤回から約2カ月後に見直し案の公募が始まる。検討時間が限られる中、大成建設はこれまでに準備してきた経験が生きた。
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