「プレッシャーとの闘いだった。とにかく無事に走り終えてくれてホッとした」。よく日に焼けた顔に白い歯をのぞかせながら、ベアリング(軸受け)大手NTNの技術プロモーショングループに所属する谷口辰熙さん(24歳)はさわやかに笑った。
8月30日、パリパラリンピックの陸上男子400メートル(車いすT52クラス)決勝。3位に輝いた伊藤智也選手(バイエル薬品所属、61歳)の競技用車いす(レーサー)を技術支援し、日本勢として史上最年長のパラリンピック・メダリスト誕生に貢献した。
加速を支えた超高性能ベアリング
会心のスタートダッシュが偉業を引き寄せた。けたたましい号砲と共に、頂点を競った8人が両腕にグッと力を込め、一斉にタイヤをこぎ始める。伊藤選手はその中でいち早くトップスピードに達して先行。それを陰で支えたのは、NTNが提供した超高性能ベアリングだ。
ホイールと車体の接続部に計4個を搭載し、こぐ際の摩擦を大幅に軽減。伊藤選手の膂力に呼応したタイヤは、立ち上がりからヌルヌルと滑らかに回転し、爆発的な加速を見せた。中盤以降に上位2人には引き離されたものの、雨にぬれたトラックで懸命に粘り、「銅」を守り切った。
このベアリングの組み立てと取り付け、微調整を谷口さんが担った。NTN陸上部に所属する長距離ランナーでもあり、今年1月のニューイヤー駅伝では1区を務めた主力選手だ。大東文化大学4年時には主将として箱根駅伝の10区を走った経験もある。
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