
「買収ではない買収」で人材を獲得
2025年初頭、中国のDeepSeek(ディープシーク)が西側AI業界に衝撃をもたらした。中国のオープンソースAI三強(ディープシーク、Qwen、GLM)は、かつてオープンソースLLMの最高峰とされたメタ・プラットフォームズのLlama(ラマ)を完全に凌駕した。
OpenAIやアンソロピックが誇る、世界トップクラスのプロエタイアリーLLM(オープンソースではないLLM)も互角に競い、グローバルAI覇権競争の差は急速に縮まりつつある。
中国の脅威に直面したメタのマーク・ザッカーバーグCEOは、即断即決で戦略を転換し「ファウンダーモード」(創業者が自ら前面に立ち、変革意思決定を強行する緊急モード)へ回帰した。
具体的には、基礎AI研究部(FAIR)の優先度を下げ、人間の認知限界を超える自己進化型AIを目指すSuperintelligence Lab(SIL)を新設。本人が15分の直接通話で世界トップのAI研究者50名を説得し、前例のない金銭的インセンティブで獲得に乗り出している。
メタは規制を巧みに回避しながら、変革的人材獲得に向けて財務エンジニアリングを駆使している。6月、Scale AIに143億ドルを投資し、49%の持分取得という独禁法審査を回避する形で、28歳の共同創業者をSIL共同リーダーに迎え入れ、GitHub元CEOと共に指揮を執る。
この「買収ではない買収」モデルは、マイクロソフトがInflection AIへの戦略的投資を行い、共同創業者ムスタファ・スレイマンを引き抜いた先例が先鞭をつけた。グーグルもCharacter.aiから30億ドルで人材を獲得。規制回避、投資家リターン、そしてAI覇権に不可欠な人材確保という三つの目的を同時に達成する戦略だ。
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