
JR東海が建設を進めるリニア中央新幹線・品川─名古屋間。その最大の難所とされる南アルプストンネルの静岡工区について、JR東海と静岡県の間で進められてきた大井川の水資源をめぐる協議が、今年6月に合意に達した。これは、着工に向けた大きな一歩といえるだろう。
しかし、これですべての問題が解決したわけではない。残る論点は、生物多様性への影響とトンネル掘削で発生する土砂の環境への影響の2分野だ。生物多様性については、17項目のうちわずか3項目しか対話が完了しておらず、土砂についても5項目のうち1項目にとどまっている。
生態系への影響を100%予測することは難しく、工事の状況とその影響に応じて対策を講じていくしかない。鈴木康友・静岡県知事は昨年5月の就任会見で「どこかで政治的な決断も必要と思う」と話しており、対話が膠着した場合は知事の判断で工事を認めることになるのだろう。
JR東海のベテラン社員は、静岡工区の着工の遅れが全体の工事期間に影響することを懸念する。「着工のタイミングにもよるが、工期は本当に10年で大丈夫なのか。15年かかるとなると、そろばんをはじき直さなければならない。工事費用は想定内に収まりそうになく、現場はそうとう焦っている」。