参院選後の日本版「トラスショック」=拡張財政で「売り一色」の現実味…安心材料として持ち出されてきた論点はもはやそれほど盤石ではない

日本の政局リスクが金融市場に与える影響、とりわけ円売りや債券売り(円金利上昇)を焚きつけるのではないかとの懸念が高まっている。こうした光景が2022年9~10月に英国で発生したトラスショック(以下後述)を彷彿させるという議論も徐々にメディアで目にするようになってきた。
円金利に関しては、4月以降、20年、30年、40年といった超長期金利の騰勢が注目され続けているが、7月に入ってからは10年金利も1.60%に肉薄するなど上昇が続いている。この円金利上昇と円安が併存しているため「これは債務危機の予兆ではないのか」との思惑が強まるのも理解はできる。
こうした動きは選挙後の拡張財政を懸念した動きとの見方が根強い。基礎的な諸条件が異なるため、一概に日英比較をするわけにはいかない。
筆者の結論は先に言えば、トラスショックほどの急性的な動きは考えにくいとしても、過去に言われてきた「日本国債は内国債だから大丈夫」、「膨大な対外純資産、経常黒字があるから大丈夫」といった議論を現在に当てはめることには慎重であるべきに思える。
拡張財政を受け「英国売り」一色に
簡単にトラスショックのおさらいをしておこう。
2022年9月に就任したトラス首相は、就任以前から金融市場で強く懸念されていた大型減税を中心とする拡張財政路線を断行することを発表した。具体的には所得税の最高税率撤廃、法人税率引き上げの中止、国民保険料の引き下げ、印紙税の減税などを中心とする経済政策(通称:ミニバジェット)を打ち出した。
しかし、これを受けて英国債市場では長期金利が急騰、同国年金基金の破綻懸念からイングランド銀行(BOE)が無制限の長期債購入に追い込まれる事態にまで至った。為替市場では英ポンド/ドル相場が1985年以来の最安値(1.035ドル)を更新、株式市場ではFTSE株価指数も1年ぶりの水準まで急落するなど、金融市場は「英国売り」一色に染まった。
BOEの介入により金融市場は徐々に落ち着きを取り戻したものの、トラス首相自身への信認が戻ることはなく、結局、2022年10月20日、就任からわずか45日で退任に追い込まれた。これがトラスショックの顛末である。
当時はBOEがパンデミック後の緩和の巻き戻しとして量的引き締め(QT)に着手するタイミングとも重なっていたという間の悪さもあったが、金融市場の警告を振り切るような経済政策運営は潜在的に大変なリスクを抱えていることを実証したと言える。
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