
赤い培養液の中で、まるで本物の心臓のように脈打つ直径3.5センチの「iPS心臓」。大阪・関西万博の目玉の一つとして人材派遣会社パソナグループのパビリオンで展示されている。
iPS心臓を製作したのは、心臓血管外科医の澤芳樹・大阪大学大学院医学系研究科特任教授(70)が創業し、最高技術責任者(CTO)を務める阪大発の「クオリプス」だ。東証グロースに上場するバイオベンチャーである。
クオリプスとともに、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った「心筋シート」による再生医療の実現を目指す澤氏。大阪大医学部長、日本再生医療学会理事長などの要職を歴任し、現在は大阪警察病院の病院長を務める。2020年に紫綬褒章を受け、2027年には、140以上の学会が加盟する日本医学会の総会で会頭の大役を果たす。名実ともに関西医学会の権威であり、日本の再生医療界のトップランナーの1人だ。
iPS心筋シート由来の「培養上清」点滴に批判の声
その澤氏が昨秋、東京・銀座の富裕層向けクリニックで再生医療の自由診療を手掛けることが明らかになり、物議をかもした。

iPS細胞由来心筋シートの「培養上清」、つまり培養液の上澄みを点滴するという診療内容に、SNS上や再生医療分野の研究者の間で驚きや批判の声が上がったのだ。
「若返り美容」などの名目で幹細胞培養上清の点滴を提供するクリニックは数多くあるが、人に投与した際の有効性や安全性は証明されていない。
再生医療学会のある関係者は「科学的根拠に基づく治療の提供を標榜する学会の立場として、元理事長がこんなことをしたらさすがに困ると、理事会のメンバーの間で話題になった。やめてほしいと、澤先生に直接進言した人もいたようだ」と明かす。
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