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すばる望遠鏡の最強観測装置がついに本格稼働。15年の国際プロジェクトを成功に導いた研究者たちの熱意と粘り強い対話、そしていくつもの奇跡

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記者会見で新装置の意義を説明する村山斉・カブリIPMU教授(左)と田村直之・国立天文台ハワイ観測所教授=東京都内で1月10日(筆者撮影)
科学の取材は楽しい。それは科学が「生命とは何か」「宇宙はどのように始まり、これからどうなるのか」といった誰もが一度は抱く根源的な謎を、少しずつ解き明かしていく営みだからだろう。研究の最前線にいる研究者の話は、いつも知的興奮を与えてくれる。
一方、科学も社会の中で行われる「人の営み」の1つだ。その時々の社会や政治、経済の影響を直接受けることもあれば、新たな発見や科学技術が社会に変革(時には事件や事故)をもたらすこともある。この連載では、科学や科学技術のリアルな姿を通して今の時代を読み解いていく。

第1回となる今回は、国立天文台の「すばる望遠鏡」で3月に本格稼働を開始した新たな観測装置について取り上げたい。

連載「いまを読み解くサイエンス」の第1回をお届けします

昆虫の「複眼」にたとえられるその装置は、15年に及ぶ長期の国際プロジェクトによって完成した。宇宙の暗黒物質の分布や性質、暗黒エネルギーが時間変化するのかどうかなど、重要なテーマでの研究成果が期待される。

プロジェクトが歩んできた道のりには、資金切れによる中断の危機や新型コロナウイルスのパンデミックなど数々の困難が立ちはだかった。ゴールにたどり着いた背景には、研究者たちの熱意と粘り強い対話、そしていくつもの奇跡があった。

複眼で「宇宙の国勢調査」が可能に

「15年かけてやっと装置の完成まできた。ちょっとこないだ涙が出てきたんですけれども、本当にすごいことだと思っています」

装置の本格稼働を前に行われた2025年1月の会見。プロジェクトチームを率いた東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)の村山斉(ひとし)教授の言葉には感慨がこもっていた。

ハワイ・マウナケア山頂に立つすばる望遠鏡は、運用開始からおよそ四半世紀が経つ。これまで随時、観測装置を増やし、性能をアップデートしながら宇宙を観測してきた。

例えば2013年から稼働する「超広視野主焦点カメラ」は、高さ3メートル、重さ3トンの巨大なデジタルカメラで、空の広い範囲を一度に、かつ高解像度で撮影できる。

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