
――シェフや料理人は日本ではステータスがあるように思っていたのですが、現実はどうなのでしょうか。
海外、とくにヨーロッパでは医師や弁護士と同等の高い地位にある。「コックコート」と呼ばれる白い制服は清潔さの象徴であり、皇帝などに仕え、命を司る「食」に就くという神聖性に対する敬意の表れでもある。
一方、日本における料理人という職業に対する認識はかつて、「飯ぐらいは食えるだろう」という程度で、そこまであこがれの対象ではなかった。それが1990年代にテレビ番組「料理の鉄人」が放送され、世の中から脚光を浴びるようになった。
私たちはその「鉄人」の2世代後に当たる。その世代からグローバルな感覚が芽生え始めた。8年ほど前までは、ヨーロッパのミシュラン三つ星レストランの2番手のシェフ(事実上の料理長)は、ほとんど日本人が占めていた。しかし、今は状況が変わってきている。最近、フランスの2番手として増えているのはタイ人や韓国人など別のアジア人だ。
約10年前から料理関係の専門学校で募集停止が出始め、2年ほど前からは、私が知っているだけでも専門学校が6校ほど潰れている。これらは日本が少子化に直面していることと無関係ではない。ただ、料理人の社会的地位が十分に高くないため、職業の優先順位として選ばれにくいのだ。
技術習得の練習時間がなくなっている
――2019年4月から時間外労働の上限規制が施行され、飲食業界も適用されました。これは地位改善につながっていませんか。
われわれの世代は、誰よりも早く厨房に入り、どれだけ厨房にいるかが問われた時代だった。1日14時間働くことも当たり前だった。そこにホワイトカラーの労働時間に関するルール(時間外労働の上限規制)が導入され、労働時間管理が厳しくなっている。
――料理人も「8時間で帰りなさい」と?
そうだ。リアルな現場で何が起きているかというと、皮むきや細かく切るなど、技術を習得するための練習時間がなくなっている。かつては「技術を盗む」という言葉があったが、それができない。個々の作業効率や能力を今まで以上に上げていかなければならない状況だ。
先日、現場で問題になったのは、始業時間が9時なのに、ある見習いの人が8時に来ていたというケースだった。
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