《若手記者・スタンフォード留学記 8》内側から見たアメリカの大学と学生--”見掛け倒し”と”本当にすごい”ところ

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 「アメリカの大学教育は素晴らしいと、世界中で言われているけれど、どこがそんなに素晴らしいのだろうか? 一流大学の学生は、本当にそんなに優秀なのだろうか」

留学から1年が経ち、漠然と抱いていたこの疑問に、自分なりの答えが少しばかり見えてきました。結論は、「感嘆するところもありますが、そうでもないところもある。しかし、日本が学ぶべきところは、数多くある」です。

まず、すごくないところから。

一つ目は、数学力。私も、日本では数学が出来なかったほうなので、偉そうなことは言えないのですが、アメリカの文系学生の数学力はあまり高くありません。そもそも、大学院入学のためには、GRE(Graduate Record Examination)というテストを受ける必要があるのですが、数学の試験のレベルは、日本の中3レベル。日本人なら、まともに準備すれば、満点は堅いところです。入学後も、大学院生向けに、微分積分や行列の補講があったりするくらいです。

成績のつけ方は、意外と甘い

次に、「アメリカの大学は成績のつけ方が厳しく、下手したら退学になる」という通説についてです。実際には、一般の思い込みとは裏腹に、ことスタンフォードでは、学部生では成績が悪くて中退になるような人はまれで、成績の付け方もさほど厳しくありません(大学院となると、学部・専門に応じて、事情が異なります)。

UCバークレーで学部を卒業した友人の一人は「以前、学部生のTA(ティーチングアシスタント、教授の補佐をする大学院生のこと)をしたのだけれど、スタンフォードの成績のつけ方が甘いのに驚いた。バークレーでは、落第になる学部生がたくさんいたのに…」と言っていました。

「成績にインフレーションが起こっている」とはよく言われることで、友人の話では、事情はハーバードでも同じそうです。最近話した、経済学部の女の子は、「プリンストン大学は、成績の付け方が厳しくなったから、採点の甘いスタンフォードの方を選んだ」と率直に語っていました。(2004年から、プリンストン大学はA(日本でいう優)をとれる生徒の数を制限することを決めた)。

やはり、大学もなんだかんだ言って商売ですから、生徒と激しく揉めてまで、厳しい成績をつけようとするインセンティブは低いのでしょう。とくに、学部時代の成績は、就職の際に極めて重要ですから、成績のつけ方が甘い大学のほうが生徒にとってはありがたいですし、就職実績がよくなると、大学にとってもメリットがあります。

その上、教授の立場からしても、成績を甘くつければ、生徒から不満を買うリスクは下がり、研究に集中しやすくなります。実際、経済学部の友人は、「スタンフォードの教授は、自分の研究に熱心で、授業にそこまで力を入れていない」と不満をもらしていました。

もちろん、日本に比べれば、「教授の教え方がうまいな」と感じることは多いですが、感動するような授業がたくさんあるわけではありません。とくに、教授が一人でしゃべり続ける講義型の授業は、さほど面白くありません。

アメリカの授業は、知的な「朝まで生テレビ」

一方、これは素晴らしいと感じるのは、20人程度で行われる、セミナー型の授業です。教授を中心に皆が机を囲み、一つのテーマについてとことん語るという、いわば、知的な「朝まで生テレビ」のような授業です。

そもそも、本家の「朝まで生テレビ」が面白くない理由は、「司会の田原総一郎氏が自分の意見を押し付けすぎる点」と、「討論のメンバーが共通の知識を持っていないため、議論がかみ合わない点」にあります。

翻って、セミナーの場合、皆が宿題として、同じ本や論文を読み込んでいるため、共通の土台があります。そして、教授はよき司会者として、自説を押しつけるのではなく、さまざまな意見を生徒から引き出していく役目を担います。個人的には、語学力の不足もあり、議論についていけないことも多々あるのですが、3時間、頭をフル回転させるので、講義型の授業に比べて、記憶の定着度が格段に上がります。

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