《若手記者・スタンフォード留学記 8》内側から見たアメリカの大学と学生--”見掛け倒し”と”本当にすごい”ところ


 こうした質の高い授業を、若い頃から受けられるアメリカ人は本当にうらやましい。たとえば、先学期受講した外交政策の授業では、ケーススタディーとして、イラク戦争を取り上げたのですが、大学4年生の学生が、イラク戦争失敗の理由を侃々諤々と議論し、目の前の失敗から教訓を導き出そうとする姿勢には、アメリカという国の凄さを感じました。

日本の大学でもぜひ、「なぜ日本は第二次世界大戦に負けたのか」「大蔵省はなぜバブルの処理に失敗したのか」などなど、将来の日本にとって教訓となるテーマを、学生たちが徹底討論できるようなチャンスを与えてあげたいものです。

1分も無駄にしない、時間管理術

もう一つ、アメリカの学生を見ていて感心するのは、時間管理のうまさです。圧倒的な仕事量を、いかに限られた時間の中でこなしていくか、というトレーニングが徹底して行われています。

こう言うと、「日本でも、時間管理のスキルは、受験勉強で鍛えられている」と反論されるかもしれませんが、アメリカの学生に求められる時間管理術は、いわゆる、賢い受験勉強で求められるものとは異なります。

受験勉強は、あくまで自分との戦いです。自分一人の時間をどう効率的に使うかの勝負です。一方、アメリカの大学は、グループワーク的な課題が多いので、自分が頑張るだけでは限界があります。うまくリーダーシップをとって、会議を短くしながら、チームの力を引き出す能力がないと、いい成績はとれません。

私が学生の頃は、あたかも時間は永遠にあるかのように思い、授業をさぼって、延々と本を読みふけったり、友人と語り合ったりしたものですが、こちらの学生はいつも何かに追われています。時間に対する感覚が鋭い。

予習、宿題、グループワーク、そして、遊びをいかに効率的にこなすかに、相当気を使っています。朝起きて、3時間予習をして、授業の合間に1時間ジムで汗を流して、というような、見事な時間の使い方。トレーニングのために、必死にランニングしている姿を見ていると、ストイックすぎて、むしろ体に悪いのではないかと思えるくらいです。

とくに、私の知る範囲で、もっとも優秀なのは、ロースクールの学生です。

今学期から、5人でチームを組んで、「グーグルの本社があるマウンテンビューの公立学校をコンサルする」というプロジェクトを進めているのですが、ロースクールに通うチームメイトはとにかく仕事が速い。一緒に会議をしていても、物事がサクサクと決まっていくので、気持ちがいい。東大法学部出身でも、仕事ができない人はいるでしょうが、アメリカの一流ロースクール出身で、仕事ができない人はあまりいないだろうな、と勝手に思ってしまいます。アメリカの場合、学歴と仕事の能力との比例関係は、日本より高いのかもしれません。

大統領に、ロースクール出身者が多いのも、地頭の良さもさることながら、多種多様なテーマを一度に回していくスキルが、学生の頃からしみついていることもあるのでしょう。クリントン夫妻やオバマ氏などを見ていると特にそう感じます。(ちなみに、マケイン氏の大学時代の成績は最低レベル。私は、そんな彼の方に親近感を感じてしまいますが……)

ただ、正直に言うと、こうしたアメリカ人学生に、感心はしているのですが、憧れていないことも確かです。「もうちょっとまったりした時間がほしいよね」、と思ってしまうのは、私が怠け者だからでしょうか(苦笑)。

あまり効率性ばかり気にして、皆がガツガツしている職場も御免ですが、日本人のビジネスマンは、アメリカのエリート学生たちから、時間管理術を学ぶ価値があるかもしれません。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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