《若手記者・スタンフォード留学記 6》オバマでもマケインでも変わらぬ対中融和政策
11月の本投票に向け、熱気を増すアメリカ大統領レース。日本ではとかく、オバマ、マケインの対日政策に話題が集まりがちですが、日本の将来を占う上で、同じくらい重要なのが、アメリカの対中政策です。
冷戦中の世界では、日米関係とソ連の脅威にさえ注意を払えば、日本の外交政策が語れました。しかしこれからは、「日米関係」「日中関係」、そして、「米中関係」の3つの方程式を解かなければ、日本の外交戦略は導き出せません。
アメリカと中国の関係を語るとき、大まかに言って、2つの類型があるように感じます。
一つ目の考え方は、中国封じ込め派。
「アメリカは民主主義を理念とする国である。共産党の一党独裁下にあり、チベットなど少数民族の人権を蹂躙している今の中国は許容できない。今後、拡大する経済力をベースに、アメリカの覇権に挑戦してくる可能性が高い中国は、封じ込めの対象とすべきである。アジアにおけるアメリカの同盟国、最も大事なパートナーは日本である」。
端的に言うと、冷戦期のソ連を見るように、中国をアメリカの覇権に挑む敵として見る考え方です。実際、知日派の代表格であるリチャード・アーミテージ元国務副長官(マケイン氏の上級顧問)は、以前スタンフォードのキャンパスを訪れた際、不透明な軍事費拡大や環境汚染に関して、中国を非難する一方、日米同盟の重要性を繰り返し説いていました。
もう一つの考え方は、中国融和派。
「中国はこれからアジアの最強国となる国であり、中国経済は世界経済のエンジンである。よって、中国と仲良くしたほうがアメリカ経済のためになる。軍事的にも、日本は頼りにならないので、中国にアジアをまとめてもらおう。中国を怒らせないためにも、共産党の独裁やチベット問題について口を挟まないほうがいい」。
中国は大国であり、それに見合った地位を与えるべきだという立場です。ちょうど先学期の授業でも、クリントン政権でNSC(国家安全保障会議)の幹部を務めたこともある教授が、次のように語っていました。
「中国はじきに世界第2位の経済大国になる大国だし、徐々に民主化も進んでいくだろう。台湾も中国に併合されるのが自然な形だ」。
私が「台湾の民主主義をアメリカは守らなくていいのですか?」とたずねると「もっと現実主義になりなさい」と諭されました。直接的にアメリカの国益と関連しない台湾の民主主義のために、わざわざアメリカ人の血を流すのは、国益に合わないということでしょう。
日本では、「共和党=中国に敵対的」、「民主党=中国と融和的」という認識に基づいて、「マケインの方がオバマよりも日本にとって望ましい」と結論付けがちですが、その図式は、必ずしも正しいとは言えないようです。
なぜか。その理由を理解するためには、「そもそも、アメリカの対中政策を牛耳っているのは誰なのか」を知る必要があります。
金に釣られる、アメリカの外交エリートと学者たち
アメリカにも、日本のように、”対中政策に強い影響力をもつグループ”が存在します。その中心となる4つの勢力が、高級月刊誌「ハーパーズ」(8月号)に、「THE MANDARINS(中国の高級官僚)」というタイトルで、紹介されています。この記事は、「ブッシュ大統領を筆頭に、なんでアメリカはこうも中国に甘いのか」という観点から書かれたレポートです。
1)多国籍企業(北京オリンピックのスポンサーを務めた、GE、コダック、マクドナルド、コカコーラなどが典型)
2)民主党のカーター、クリントン政権期の外交担当者で、「融和的政策」を実施した人物(アンソニー・レイク、サンディー・バーガーなど)
3)アカデミズムの中国研究者
4)共和党のニクソン政権で国務長官を務めた、ヘンリー・キッシンジャーとその弟子たち(ブレント・スコウクロフト、アレクサンダー・ヘイグなど)
この4派閥に共通しているのは、中国の将来について楽観的なことです。