《若手記者・スタンフォード留学記 6》オバマでもマケインでも変わらぬ対中融和政策


彼らの考え方は、「中国がこのまま豊かになって中間層が育ってくれば、自由を求める声が高くなり、政治体制も自然と民主主義へと移行していくはず。だから、中国には強く出ず、やさしく接していきましょう」というものです。前・福田政権の考え方にも似ています。

中国に対して楽観的なこと自体は、個人の自由です。ただ、チャイナスクールの面々が自分の信念から「中国に甘い」のではなく、単に自分にとって得だから「中国に甘い」という側面が強いことは、問題だと思います。

大企業が、中国に取り入るのはわかりやすい。生産基地としても、物を売るマーケットとしても、中国は魅力的なので、共産党の機嫌をとって、有利に商売をさせてもらおうという目論みです。

そして、大企業と共産党の間をつなぐのが、キッシンジャー、スコウクロフト、レイクなど、前述した外交界の重鎮たち。多くの外交エキスパートは、ロビー活動のための会社を持っており、大企業の中国進出を助けることで、多額のコンサル料を懐に入れています。政府で働いているときは薄給に甘んじ、在野となったらロビイングで稼ぎまくるわけです。たとえば、クリントン政権を去った人間のうち、60%がその後ロビイストになっています。日本の天下りもひどいですが、アメリカのロビー活動も度が過ぎています。

金で釣られるのは、学者も同じです。

中国楽観派であれば、企業や中国政府から援助が得られやすい一方、批判的なことを書くと干されてしまう可能性が大。すると、重要人物のインタビューや、文献へのアクセスが禁じられて、中国エキスパートとして食っていけなくなってしまうわけです。実際、アメリカの代表的な中国専門家であるペリー・リンク・プリンストン大学教授は、中国政府を批判してきたため、1996年以来、中国への入国を禁じられているそうです。

オバマとマケイン、どっちが中国に厳しい?

過去8年、米中関係は至って良好でした。ブッシュ大統領はアメリカにとっては最悪の大統領だったかもしれませんが、中国にとっては最高の大統領でした。就任当初こそ、中国を”戦略的競争相手”と呼び、台湾に対して同情的でしたが、それも9.11を機に激変。テロとの戦いで中国の協力を仰ぐため、中国をパートナーとして位置づけ、「台湾の独立は認めない」といい始めました。

では、オバマ、マケイン政権ではどうなるでしょうか?

「ブッシュ政権よりも中国に甘くなることはないが、基本的には現状維持。台湾海峡に大きな問題が起こらない限り、当分の間、米中関係は安定する」のではないでしょうか。

なぜなら、第1に、リーダーは代わっても、チャイナスクールは健在です。オバマの外交顧問は、前述のアンソニー・レイク氏(閣僚候補の一人)ですし、マケインのアドバイザーには、キッシンジャーやスコウクロフトが名を連ねています。つまり、双方の外交ブレーンともに、チャイナスクールの代表メンバーであるわけです。

第2に、外交政策の中で、中国問題のプライオリティーは決して高くありません。「中東やロシアに忙しくて、中国にかまっている余裕はない。中国は、軍事的にも、経済的にも今のところアメリカの敵ではないし、北朝鮮問題でサポートが必要になる。中国マーケットに食い込むためにも、当分は様子見を決め込もう」というのがコンセンサスでしょう。

ただ、アメリカの外交は一部のエリートのみによって動かされているわけではありません。世論こそ、最強の外交官です。そして今、アメリカの世論が中国批判に傾いていることも確かです。

チベット問題や、オリンピックでの口パク、言論統制などで、リベラル派、保守派を問わず、中国に対する印象が変わり始めています。リベラル派のアメリカ人の友人は、中国が大嫌いでいつも文句を言っています。「あの国には理念なんかない。頭の中にあるのは、金儲けのことだけだ」と。代表的なメディアでも、中国批判が以前に比べ、増えてきました。

経済的にも、大企業側から見ると、中国との交易は大歓迎ですが、中小企業や従業員の立場からすると、マイナス面のほうが大きい。コスト競争に巻き込まれて、倒産、失業のリスクが高まるわけですから。今やアメリカでは、自由貿易を支持する人間は全体の3分の1まで落ち込んでいます。この数字は、先進国の中で最低の支持率です(The Economist , July 3rd 2008, "Return to centre")。

今のアメリカならば、人権問題に、中国からの輸入による失業者拡大を組み合わせて、中国を非難することは政治的な人気取りとして役立つでしょう。

今後の米中関係は、基本線ではこれまでどおり。ただ、中東、ロシアの状況が改善して余裕が出てくれば、世論の声いかんで、中国により厳しい姿勢をとることもありうる--誰が大統領になるにしろ、こうしたシナリオが有力だと思います。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

 

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