
「2028年春、中国が台湾侵攻に踏み切る」。台湾のテレビ局が2025年に全10回で放送を予定しているドラマ「零日攻撃(ゼロ・デイ、ZERO DAY)」は、中国による台湾侵攻を描くサスペンス仕立ての作品だ。1月には、2045年に中国が台湾を侵攻するというシナリオに基づくボードゲーム「2045」まで発売されている。
日本では「2027年台湾有事説」がメディアで定着している。一方、当の台湾ではその年を出しても人々はピンとこない。そして現実と地続きであるはずの戦争が、台湾社会でエンターテインメントとして仮想化されている。これは台湾社会における「戦争」の語られ方が変わりつつあることを象徴している。
2027年有事説は誰が言い出し、誰が信じているのか
「2027年に中国が台湾侵攻に踏み切る」という予測は、台湾よりもむしろ日本で根強く信じられている。発端は2021年3月、アメリカのインド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)がアメリカ上院で「6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と証言したことだった。
この「6年以内」という数字が独り歩きし、「2027年台湾有事説」として拡散していくこととなる。だが、台湾ではこの年を現実に起きる年として真に受けている人は少ない。実のところ、台湾の政府や軍が使う「2027年」は、「外向けの設定」の要素が強い。
筆者が台湾で講演した際、「日本では2027年説が広まっている」と紹介すると、聴衆からは「そんな話、聞いたことがない」といった反応が返ってきた。台湾の軍関係者であっても、「それは日本やアメリカに台湾の危機感を共有してもらうための演出にすぎない」と割り切る者もいる。
確かに台湾の軍事演習では、2027年をシナリオ上の想定年として採用することが近年増えている。今年4月に行われた漢光41号演習(シミュレーション演習)でもその年が設定されていた。
だからと言って、彼らが「2027年に必ず戦争が起きる」と信じているわけではない。むしろ「2027年台湾有事説」の発信源であるアメリカやその説が定着した日本など「国際社会が(台湾を)注目するように仕向ける」意図が込められている。
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