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台湾で問題となっている中国人配偶者に対する厳格化措置、安全保障と人権・民主を両立させる難しさ

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台湾内政部移民署のロゴ
中国出身者への措置を厳格化している台湾当局。拙速な動きに批判も出ている(写真:Getty Images)

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※本記事は2025年5月24日6:00まで無料会員は全文をご覧いただけます。それ以降は有料会員限定となります。

台湾で台湾籍の人と結婚した中国人配偶者への当局の措置や差別が問題となっている。台湾の内政部(省)移民署は4月に2004年以前に台湾の身分証を取得した中国から来た「大陸地区配偶者(中国人配偶者)」とその子どもに対し、「大陸地区戸籍喪失」の証明や補助資料の提出を3カ月以内に行うよう発表し、未提出の場合は台湾戸籍を喪失すると通告した。

背景には中国による台湾への浸透工作が強まっていることに対して、当局が安全保障の観点から対応を厳格化していることがある。ただ、台湾社会では長年中国人配偶者への差別が続きそれが問題視されてきた中、当局による厳格化は差別を助長する恐れがあるほか、中国人配偶者からは期限内に対応することが難しいと懸念の声が出ている。

BBC中国語版や台湾の独立系調査報道メディアの「報導者」など相次いで中国人配偶者をとりまく社会問題や当局の対応について報道が出ている。安全保障と人権、社会の多様性維持など普遍的価値のバランスの取り方で台湾政府は課題を突き付けられている。

中国の浸透工作に対応強化する台湾政府

中国人配偶者の戸籍に対して厳格な対応をとる背景には、中国による浸透工作や高まる脅威への対応がある。契機のひとつとなったのは「亜亜」と呼ばれる中国人インフルエンサーの強制退去事件だ。

台湾人と結婚して台湾に居住していた中国籍の劉振亜さんはSNSで中国による台湾の「武力統一」を煽動したとして、居留許可を取り消され、3月末に台湾を強制退去させられた(詳細はこちら)。台湾当局はこのほか2名の中国籍配偶者も同様の理由で居留許可を取り消したほか、中台間を頻繁に往来し、台湾で「正常な」生活を送っていると判断できないとした約30人のうち、一部の戸籍を規定に基づき抹消したと公表した。

中国による台湾への浸透工作は強まっている。政府高官の元秘書や退役軍人の中で中国当局から金銭を受け取り、情報漏洩したとの疑いが相次いで出ている。また2024年末には台湾のYouTuber「八炯」氏が、中国による台湾ネットインフルエンサーの組織的取り込みとプロパガンダ利用の手口を暴露したほか、中国の身分証を取得した台湾市民が十数万人に上ると示唆され、大きな反響を呼んだ。

最新の世論調査(2025年4月、大陸委員会の委託により国立政治大学選挙研究センター実施)によれば、70.9%が中国共産党を台湾政府に「非友好的」と認識し、54.4%が中国共産党は台湾人民にも非友好的態度をとっていると考えている。中国の対台湾浸透活動の深刻化を懸念する割合は73.7%、台湾で武力統一を支持する中国籍配偶者の居留許可取消に賛成と答えた割合は67.8%だった。

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