台湾に来た中国人配偶者「陸配」がなぜ台湾の政治的問題として浮上したのか、その歴史と現政権の思惑、そして移民・人権問題(後)

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
台湾人と結婚し、中国から台湾に来た中国人配偶者を意味する「陸配」。自ら陸配で、台湾でも作家、ジャーナリストとして活躍する上官乱さんが、台湾の「陸配」の実状について語ってくれた(写真・上官乱さん提供)
「中国は台湾を武力統一すべきだ」と主張した台湾の中国人女性が台湾の在留資格を取り消され、中国に帰された事件があった。2025年4月12日「『武力統一』を記した台湾の中国人妻はなぜ台湾から強制退去させられたのか、台湾内部の根深い対立と言論の自由の問題」でその内容を紹介した。強制退去させられた女性は、台湾で「陸配」と呼ばれる台湾人と結婚した中国人だ。
現在、台湾に約38万人いるという陸配の人たちの実態はどうなのか。台湾在住のジャーナリストで、自ら陸配として来台し、多くの陸配を取材してきた上官乱さんに話を聞きながら、陸配の実態について紹介する。本記事は前編、中編に続く後編である。

頼清徳政権になり状況が一変

しかし、蔡英文総統を引き継いだ同じ民進党の頼清徳政権が発足した2024年からは、陸配をめぐる状況が一変した。頼清徳政権と中国との対立がエスカレートする中で、台湾では中国に関する多くのものに対して嫌悪感、警戒感が強まった。政策的にも社会的にも、その矢面に立たされたのが最も弱い立場にある「陸配」だったと言えるだろう。

現在、陸配が直面している最大の問題が二重戸籍の問題だ。

Shang Guan Luan/1986年生まれ。中国・四川省成都市出身。作家、ジャーナリスト、インフルエンサー。 大学でメディア学を学び、メディアでの勤務を経て、フリーランスに転じる。台湾人の夫との結婚で2021年から台湾在住。「ラジオ・フリー・アジア」(自由アジア放送、RFA)、「ドイチェ・ヴェレ」パーソナリティーなどを務める。著書に『這樣走,才能看見真台灣』(海南出版社,2017年)。YouTubeチャンネル「上官亂ShangGuanluan」「亂中有序 愛台客」(写真・早田健文)

陸配は、居留証を獲得して8年(現在は6年)経てば身分証を申請できる。この際、中国で戸籍を除籍した証明が必要となる。つまり、台湾籍を取得するときには中国の戸籍を抜く必要があるということだ。

現行の台湾の中華民国憲法は、依然として台湾と中国はいずれも「1つの中国」に属しているという立場に基づいており、両方の戸籍を持っていると二重戸籍になるためだ。

ところが、台湾の陸配に関する法令はそれまで混乱していたといえる。陸配は1980年代末から出現したが、台湾で「台湾地区と大陸地区両岸人民関係条例」が制定されてきちんとしたルールが定まったのは1992年。それまでの間、陸配に関する法律は空白だった。それ以降、台湾籍を取得するときには「中国の戸籍を抜く」と決められた。

審査を経て台湾籍を取得すれば、身分証が発給される。身分証を獲得したら、3カ月以内に中国の戸籍地の公安局に行って除籍証明をもらい、台湾に戻ってそれを提出して、ようやく台湾籍の身分が確認される。3カ月以内に除籍証明を提出しなければ、すでに発行された身分証は取り消される。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事