「制作には2年近くも」日本に8人しかいない≪切手デザイナー≫東京藝大の受験に4回失敗、45歳で辿り着いた職で味わった“悲喜こもごも”

150年以上も前から、手紙や絵葉書にのせて私たちの想いを運び続けてきた、小さな小さな「切手」。日本で最初の郵便切手が発行されたのは、1871年4月20日のことでした。
その作り手が、日本にわずか8人しかいないことを、ご存じでしょうか。
「これまで経験してきたこと全部、ムダなんてなかったと思うんです」
そう語るのは、この道20年のベテラン切手デザイナー・貝淵純子さん(65)。現在は日本郵便株式会社で切手デザインを担当する彼女がこの職に就いたのは、45歳のときでした。
“遠回り”をしながらも着実にキャリアを築いてきた貝淵さんの半生と、普遍的なものの裏側にある、見えない戦い。その物語をたどれば、一枚の切手が単なる紙片ではなく、作り手たちの努力と想いが込められた「アート」であることがわかるはずです。
切手にはさまざまな種類が。今年、話題となったのは…
切手デザイナーの仕事は、私たちが想像するような、ただ机に向かって美しい絵を描くだけの世界ではありません。
貝淵さんによると、郵便切手には、通年販売しており日常的な郵便に使われる「普通切手」のほか、国の大切な記念日のために発行する「特殊切手」、さまざまな手紙に合わせて切手選びも楽しめる「グリーティング切手」など、さまざまな種類があります。
特殊切手やグリーティング切手は「記念切手」とも呼ばれ、春夏秋冬の景色や伝統的な建築物のほか、人気キャラクターが題材となることも。今年は、大阪・関西万博公式キャラクター『ミャクミャク』がデザインされた切手も発売され、話題を呼びました。
「普通切手の改訂は頻繁には行われないため、私たちが日々、企画するのは特殊切手のデザインです。“どんな切手を作るか”という計画は、発行の約2年も前から動き出します。各省庁から寄せられる提案を社内で検討し、外部の有識者にも意見を求めながら、長い時間と対話を経て、ようやく発行計画がスタートします」(貝淵さん、以下同)

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