「制作には2年近くも」日本に8人しかいない≪切手デザイナー≫東京藝大の受験に4回失敗、45歳で辿り着いた職で味わった“悲喜こもごも”

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その後もいくつもの切手等を担当してきた貝淵さんですが、この仕事に付きまとう“壮絶なプレッシャー”とは、いまだに闘っているそう。

「結局、どんな切手を作るにせよ、“ミスがないのが当たり前”って言われちゃうんですよね。当然のことですが、大量のタスクをこなしながら、デザインの本当に細かい部分にまでミスがないようにするわけですから、その影にはすごい努力があるんです」

ミスが出ないよう細心の注意を払い、勉強も入念に

例えば、動物がモチーフの切手。各動物の専門家に細かくチェックしてもらい、指摘があれば何度も何度も描き直す。発行された後に「尻尾の形が違う」「毛並みに違和感がある」などと指摘されることは、絶対にあってはならないのです。同じく、「日本の自然」がテーマであれば、描かれる風景や植物などに小さな間違いもないよう、入念な確認が必要です。

「私が手がけた普通切手には、発行後の指摘が一切ありませんでした。それが当然で、別に誰も評価してくれるわけではないけれども、自分の中ではすごいことだって思ってます。多くの方々の協力や努力にも支えられ、“当たり前”を維持し続けてこられたことには、大きな達成感とやりがいを感じています」

他に思い入れのあるご自身の作品を伺ってみると、発売当初から「かわいい」と好評だった普通切手の「エゾユキウサギ」に加え、「全国47都道府県の花」「童画のノスタルジー」「季節のおもいで」などのシリーズ作品、そして数々の記念切手だと言います。

「記念切手は、それまで知らなかった世界に触れることができるので毎回、夢中になって調べます。切手を制作するうえでは、日本の文化、文化財、世界遺産、国立公園、全国の風習のほか、著作権侵害などを避けるための知識も大事です。今でも法務部知財担当にはたびたび相談に行きますし、日々、勉強中です。

この仕事に就いて約20年ですが、自分がデザインした切手が貼られた手紙を見ると、今でも毎回嬉しくなります」

その一枚一枚に込められた、決して表には出ることのない“当たり前”のための努力を、私たちはもっと愛おしく思ってもいいのかもしれません。

50円切手シート
思い入れがあるという「全国47都道府県の花(50円)」。2011年7月発行。丁寧に描かれた色とりどりの花たちが、見る者の心を明るくしてくれます(写真/日本郵便提供)
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