「制作には2年近くも」日本に8人しかいない≪切手デザイナー≫東京藝大の受験に4回失敗、45歳で辿り着いた職で味わった“悲喜こもごも”
切手デザインのプロとして、そして一人の女性として、数々の困難を乗り越えてきた貝淵さん。コロナ禍においては、仕事を続けながらもお母様の介護、そして看取りを経験します。
「私の場合は両立期間が数カ月でしたが、上司や仲間が何度も助けてくれて。とても感謝してますし、その経験をしたことで、介護をしながら仕事をしている方たちの大変さを知りました。だから、そういう方が周りにいた際には、できる限りのフォローをしたいなと思っています。
それから、最期まで母のそばについていたことで、『死』というもの、ひいては自らの『生』を深く見つめ直すきっかけも与えてもらえました」
「後進の活躍を支えられる環境づくり」に尽力するワケ
自身の苦しい経験を、他者への優しさへと昇華させる貝淵さん。会社にテレワークやフレックス制度が導入されたことを「心からよかったと思う」と喜び、
「私は入社してしばらくの間、婦人科の病気や偏頭痛、貧血に悩まされてきたので、“あのときテレワークがあれば!”と思うことが、今でもあります。体調が変化するとき、子育て期間……どうしても思うように働けないタイミングがあったけれど、今は柔軟な働き方をして、うまく活躍できる方法がある。そんな環境が続けばいいですよね」
だからこそ、彼女は自らにこう言い聞かせています。
「“私のときなんかは〜”、みたいな、そういう小言を言う年長者には絶対にならないこと(笑)」
このユーモアと優しさこそが、貝淵さんがチームから慕われる理由なのかもしれません。そして、彼女が強く後進の働きやすさを願うのには、もうひとつ理由があります。それは「切手」という商品における、重要な顧客層が関係していました。
「郵便局に一番足を運んでくださるのは、中高年の女性なんですよ。そういう方たちが喜んでくださる切手もたくさん作れたらいいなと思うんです」
もちろん、素敵なデザインを生み出すには男性デザイナーの視点も、若い世代の感性も、すべてが不可欠。そのうえで、“最も商品を手にする”お客様の気持ちがわかる、同じような経験や価値観を持つ作り手の存在が、チームにとって大きな力になります。
「だからこそ、子育てやさまざまなライフステージの変化を経験する女性たちが、デザイナーとして活躍し続ける環境を守っていきたいなと。テレワークをする人がいても、チームで進める業務に弊害が出ないよう、うまく調整すること。それが今の自分の、密かな任務だと思っています」
そう語る貝淵さんの笑顔は、やはりどこまでも優しく、温かいものでした。

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