《若手記者・スタンフォード留学記 16》“英会話”は二の次でいい。本当に大事なのは“英作文力”

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 作家の塩野七生さんが、「語学の耳を持っている人というのは、今聞いたばかりの表現をすぐに自分で再現して使える人だ」と本の中で書いていましたが、きっと、新しく読んだ英文をすぐ英作文に応用できる人もいるのでしょう。ただし、私の語学の才能は標準レベルでしょうから、そういうシナリオは望めません。私ぐらいのレベルの人は、やはり若い頃に、いろんな英文を能動的に頭に叩き込んでいく必要があるのでしょう。
 
中学・高校の英語教育を作文中心にしてみては
 
 私がもし、中学・高校の英語教育を変えられるとすれば、英会話よりも英作文の比重を高めます。英語教育の優先順位は「読む→書く→聞く→話す」であるべきだと思うのです

第1に、英作文というのは、数学のように、じっくりと机に座って、集中的な勉強が必要です。その意味では、勉強時間がふんだんにあり、体力もある、中学・高校時代が望ましい。一方、英会話を若いころに学ぶと、将来修正できない発音の癖がつく可能性大です。へんな癖をつけるくらいなら、むしろ白紙のままにして、英会話を勉強したい人は、自分で現地に留学すればいい。英作文の添削くらいであれば、インターネットでインド在住のインド人にお願いすれば、結構安く上がるはずです。

第2に、英語を書けるということは、自分の言いたいことを頭で描く力があることになります。あとは発音にさえ気をつければ、しゃべるのは簡単ではないでしょうか。話し言葉で論文やビジネスの書類を書くことはできませんが、書き言葉で話すのは、堅くてぎこちなく感じられても、意思疎通はできますし、無礼ではありません。

第3に、英作文は、日常会話的な英会話と違い、知的に楽しめます。英語は、種々の単語を論理によって並べていく構造の言語ですから、日本語とはまた異なった論理的思考能力を養ういい訓練になります。その点、英語のリスニングやスピーキングは、勉学というより、スポーツや技術に近い。正直、他愛のない日常会話は退屈です。私がアメリカ生活で未だに馴染めないのは、「ハワユー」文化で、週末何をしたとか、嫁さんは元気かとか、新しい人と合うたびに同じような自己紹介をさせられるのは、正直うんざりするわけです(笑)。

最後に、仕事にもよりますが、英作文力は単純に英会話力より役立ちます。ビジネスの世界では、電子メールやインターネットの発達で、「書く力」の相対的な価値が上がっていますし、大学生活でも要となるのは「書く力」です。ビジネススクールやロースクールとなると、出席・発言が成績の半分を占めることもありますが、一般的な学科では、レポートが成績の要です。たとえば、今学期私が受けている政治哲学の授業では、出席・発言が25%、中間レポートが30%、最終レポートが45%という成績の配分です。つまり、しゃべりが苦手でも、書く力があれば、成績面でもどうにかなるわけです。
 
 まとめると、流暢な英会話で友達をつくりたい人ならまだしも、勉学やビジネスが焦点である人には、まずは英作文力に焦点を置くことをお勧めします。そして、英作文力をつけたい高校生は、ぜひ入試に英作文のある大学を受験するようにしてください。


佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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