《若手記者・スタンフォード留学記 15》最新メディア事情。新聞は壊滅。でも、雑誌は頑張っている


 過去8年で、北米における部数が倍増、07年には70万部を超えています。広告収入も2000年当時よりも約5割増えています。周りの学生を見ていても、シリコンバレーのビジネスマンと話していても、「エコノミスト」を読んでいる人は事のほか多い。

その他のビジネス誌も、部数だけみると、2000年時と大差ないのですが、広告収入が大幅に落ち込んでいます。

「フォーブス」の15%減はまだ良いほうで、「フォーチュン」は43%減、「ビジネスウィーク」に至っては、半分以下です。しかも、この3誌は「エコノミスト」に比べて、収入に占める広告依存度が高いだけに(「エコノミスト」の5割に対し、その他3誌は8割を超える)壊滅的なダメージを受けています。

では、なぜ「エコノミスト」だけこの世の春を謳歌しているのでしょうか?

まず、「エコノミスト」は英国の雑誌なので米国でさほど存在感がなかった、つまり発射台が低かったというのが一つ。そこに近年、積極的なマーケティングをかけ、それが成功したのがもう一つ。そして、最大の理由は、「記事のクオリティーの高さ」と「時代との相性の良さ」にあるのではないかと個人的に思っています。

今の時代、毎朝、分厚い新聞をじっくり読む暇はありません。その一方で、一週間に起きたニュースは、その事実と分析をしっかりおさえておきたいとも思います。そういう人間にとって、世界中のニュースがコンパクトにまとまっている「エコノミスト」は最適です。「エコノミストを読めば、新聞はいらない」と言ったのはビル・ゲイツですが、ネット社会になり、情報が溢れるにつれ、「エコノミスト」のような雑誌の価値はむしろ上昇しているのかもしれません。

もうひとつの「エコノミスト」の特徴は、記事のバランスが良いことです。

アメリカの新聞・雑誌は、米国以外、とくにアジアに関する記事の質・量が貧弱な上、やはりアメリカ人の目から見たバイアスが強いように感じます。とくに、今回の選挙では、主要メディアのほとんどはオバマびいきが見え見えでした(「ウォールストリートジャーナル」「FOXニュース」を除くと、主要メディアの大半が民主党支持のリベラルです)。その点、「エコノミスト」は、他の米国メディアに比べると、視点が中立に近いように感じます。

雑誌の将来は決して暗くない

その他のジャンルに目を向けると、ライフスタイル誌やファッション誌の好調ぶりが目立ちます。

たとえば、ファッション誌の「ヴォーグ」、「ハーパース・バザー」は、部数は微増ですが、収入の9割以上を占める広告収入が、過去8年間で約2倍に伸びています。高級ファッション誌はターゲットがしっかりと絞られているだけに、インターネットの影響をあまり受けないのでしょう。

こうして、アメリカの雑誌業界を見て言えることは、新聞のように業界全体が沈んでいるのではなく、様相はまばらで、好調な雑誌もあれば、不調な雑誌もあるということです。

近年、日本では”雑誌不況”が叫ばれていますが、あまり雑誌業界全体を一般化するのは、適切でないように思います。もちろん、インターネットの影響もあるのでしょうが、雑誌が廃刊に追い込まれるのは、やはり単にその雑誌が面白くなくて、クオリティーが低いからでしょう。バブル崩壊後、それまで一様に儲かっていた小売店の勝ち負けが鮮明になり始めたのと同じことです。

たとえば、月刊のオピニオン誌が続々と廃刊や部数減に追い込まれているのは、同じような論者が、イデオロギーどっぷりの議論を繰り返すのに、読者が飽き飽きしているからであって、インターネットや活字離れは関係ないように思います。

もちろん、日米の雑誌業界には多くの違いがあります。たとえば、アメリカの場合、雑誌の読者は定期購読が大半を占めます。全体の読者のうち、定期購読者の割合は「タイム」、「ニューズウィーク」、「ビジネスウィーク」は約97%、「エコノミスト」でさえ約91%に達しています。日本では、日経BP社など一部の雑誌を除いて、大半は書店・駅売りが主力です。

定期購読モデルのメリットは、不況の際も購読者数が減りにくいことですが、一方で、定期購読者を増やすために、年間購読料を相当値引きするので(米国の場合、8~9割引きはザラ)、必然的にビジネスが広告依存になります。

ビジネスモデルの違いを考慮すると、「アメリカの雑誌市場は健闘しているので、日本の雑誌も大丈夫」、と単純化することはできませんが、面白くて、クオリティーの高い商品をつくり続ければ、日本でも雑誌の将来は、決して暗くないのではないでしょうか。


佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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