アメリカで盛り上がる、日米“バブル崩壊”比較論 《若手記者・スタンフォード留学記26》

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 稼いだお金はほぼ全部消費に回し(貯蓄率はゼロ)、個人が保有するクレジットカードの平均枚数は14枚。自分の家や車を担保にさらに金を借りて、消費しまくるというズブズブの構造だったわけです。その結果、現在、日本の家計がGDPの約3倍(約1500兆円)の個人金融資産を持っているのに対し、アメリカの家計はGDPと同じ規模(約14兆ドル)の借金を抱えているのです。

ガイトナー氏のプランでは、住宅ローンを払えなくなった個人を救うための基金が用意されていましたが、これにも教授は批判的でした。「なんで自分の取り分以上の家に住んでいる人を、国の金で救わなければならないのか。今の家を売って、もっと小さい、身の丈に合った家に移らせればいいだけの話だ」と語っていました。

日本の場合、企業の負債の削減に長らく時間がかかりましたが、アメリカの場合、家計の負債削減にかなり時間がかかりそうです(借金を返すためには、消費を減らさないといけないので、その間、アメリカ向け輸出はなかなか回復しないでしょう)。

孫から借金する日本、中国・日本から借金するアメリカ

3つ目の違いは、「借金を”誰から”しているか」という点です。

日本の場合、1991年から昨年までに、実に600兆円以上の金を公共投資につぎ込み、その多くを国債でまかないました。800兆円を超えた日本の累積財政赤字の多くは、今の中年や若者、そして、将来の世代が背負うことになるでしょう。

一方のアメリカは、主に、中国・日本中心とする海外からの借り入れでお金をまかなっています。ただ、この構図が今後も続けられるかは不透明です。中国は、ファニーメイや投資ファンドのブラックストーンなどに投資して大損を被り、今後、アメリカの国債を買い増さない旨を示唆。実際、昨年の下半期は米国債を売り越しています。となると今後は、資金の出し手としての日本に対する期待が、ことさら大きくなってくるでしょう。

こうした借金漬けの現状を考慮すると、オバマの抱える悩みは深い。

一部では、オバマの「ニュー・ニューディール」を賞賛する声が強いですが、環境投資や教育など、長期的な成長力向上に役立つ施策は評価できるにしても、大規模な公共投資それ自体が大きなリスクもはらんでいます。そもそも、公共投資という財政政策に、景気回復の効果があるのか怪しい。そのうえ、ただでさえ巨額の経常赤字に、財政赤字が重なって、双子の赤字が膨れ上がるからです。

今のところ、ドルも強く、長期金利も上昇していませんが、いつまでも双子の赤字を維持できるとは限りません。「双子の赤字→ドル安→資金をひきつけるために金利上昇→投資減退かつ負債拡大で景気減速」という、不景気のスパイラルに入り込む可能性もないわけではありません。

レーガン時代にアメリカを悩ませた財政赤字は、クリントン政権下のIT革命による急成長により、無事解決しました。しかし、クリントンの貯金は、ブッシュ前政権が使い果たし、IT革命のような大きなイノベーションはすぐには見込めそうにありません。

「本当に正確な不良債権の査定ができるのか?」、「アメリカの家計のバランスシート調整はどれぐらい進んでいるか?」、「双子の赤字に伴う、長期金利の上昇、ドル暴落の兆候はあるか?」。

この3つのポイントをチェックしておけば、今後の金融危機の成り行きを、的確に把握できるのではないでしょうか。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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