
――6月以降、コメの店頭価格は下落に転じています。
国がもっと早い段階で「備蓄米を出すことを考えている」というアナウンスだけでも行っていたら、これほどまで価格は高騰していなかったかもしれない。われわれ米卸は昨年の秋口の時点で「コメが足りない」と確信し、国に対して備蓄米を出してほしいと依頼していた。
問題は価格ではなく量の不足だった。米卸としてコメを切らすわけにはいかない。
だが、国は「コメは足りている。備蓄米は不作により食糧不足が起きた時のためのもので価格を下げるためには使わない」と受け入れなかった。
ならば、備蓄米について「活用を検討する」とアナウンスするというのはどうですか、と提案した。金融の世界だと、当局が市場介入するかもしれないという噂が出るだけで為替レートが動いたりする。
「仕入れを厚めに」と米卸は焦った
――「抜かずの宝刀」だと言われますね。
政府の立場として市場への介入はなるべく行わないことが基本であり、われわれとしても、そう簡単に備蓄米を出せるとも思っていなかった。
ただ国から「備蓄米について検討してもいい時期かもしれない」という程度の話が出れば、業界外でコメを抱え込んでいるプレイヤーに対しては揺さぶりになる。出回るコメの量が増えれば相場が下がって損をするから、今のうちに売ってしまえ、となるはずだった。アナウンス効果だ。
――「転売ヤー」的な存在はいたのですか。
可能性としてはあると思っていた。産地で2024年産新米が収穫されるころ、見知らぬ人たちがウロウロしているという話を耳にしていたからだ。その時点で2024年産のコメが足りないことは見えていたから、従来のコメのサプライヤーではない業界外が入ってきた。
コメはかさばるから業界外の人間が何十トンも動かせるものではないが、相場をかき回した部分はあるだろう。
――少ない量でこれほど業者間取引の価格が高騰するものでしょうか。

取引が活発に行われていれば信憑性の高い相場が立つが、そもそも取引量が少ない中で価格が上がっていった。業界外のプレイヤーがどの程度の量を集荷しているのかもわからず、米卸は仕入れを厚めにしなければと焦った。