アメリカで盛り上がる、日米“バブル崩壊”比較論 《若手記者・スタンフォード留学記26》
アメリカは海外から無限に借金することはできないので、このサイクルはいつか壊れ、逆流し始める。それが今、起きていることです。
加えて、この消費バブルに拍車を掛けたのが、グリーンスパンFRB前議長の低金利政策とブッシュ政権の政策ミス。金融緩和はただでさえジャブジャブのマネーをさらにあふれさせて、行き場を失ったお金は、サブプライムローン、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)といった、リスクの高い商品へと向かっていった。そして、ブッシュ政権の放漫財政は財政赤字の拡大を招き、減税などの住宅に関する優遇政策が、住宅バブルを助長したわけです。
最近は金融危機の犯人として、もっぱら、デリバティブなどの金融技術が非難されています。ただ、そうした金融技術がバブルの規模を増幅させ、複雑化させたことは確かですが、それ自体がバブルの根本原因とは言えません。
アメリカと日本の3つの違い
では、日米金融危機の違いは何でしょうか?
第1に、金融技術の発達がもたらした影響度です。
日本の場合、不良債権処理までにかくも長く時間がかかったのは、金融技術的な問題よりも、政治的な不作為による部分が断然大きい。一方、アメリカの場合、証券化などの金融技術によって資産が切り刻まれているので、いざ資産を査定しようと思っても、それが可能かどうかわかりません。
たとえば、竹中平蔵氏はフィナンシャルタイムズ紙のインタビューでこう述べています(”On the role Japan should play in solving crisis, 2008 October 27th)。
「日本の金融危機は、基本的に“銀行危機”だったが、アメリカの金融市場は“金融市場全体の危機”である。日本の場合、正確な資産査定を行う際、銀行の貸し出し資産を査定すればよかったが、アメリカの場合、さまざまな複雑な金融商品があるので、資産査定がテクニカルな意味でとても難しい」。
2月9日、ガイトナー財務長官が金融安定化プランを発表しました。今週の授業では、そのプランについて議論しましたが、教授の評価は厳しかった。
教授が上げた問題点がまさに、「一体どうやって資産査定をするのか、その手法が明確でない」という点でした。銀行の貸し出し資産であれば、各銀行はそれぞれの融資先について細かい情報をもっているので、かなり正確な資産査定ができます。しかし、アメリカの場合、資産のリスク情報の多くを格付け機関に依存してきたので、保有資産の細かい情報がわかりません。
いざ資産査定しようと思っても、有効な手段がありません。あったとしても、膨大な時間がかかって、その間に、銀行が潰れてしまうかもしれません。だからと言って、正確な資産査定前に公的資金を注入すると、シティのケースように、すぐ注入資金が底をついて、泥沼状態に陥る可能性が高い。しかも、明確な基準のない公的資金注入は、マーケットからの信頼を失う。こうしたジレンマの渦中にあるのが、今のアメリカです。政治的な要素を除いたとしても、その舵取りは日本の金融危機より、数段難しいでしょう。
2つ目の違いは、バブルと個人の関わり方です。
日本において、バブルに踊ったのは、基本的に不動産業者を中心とする企業セクターで、個人は大して恩恵を受けていません。映画「バブルでGO」のような経験を味わったのは、東京の一部の人間や、当時、就職活動を行った人間くらいでしょう。むしろ、住宅価格高騰の煽りで、超遠距離痛勤、節約生活を強いられたサラリーマンも多くいたはずです。
それに対して、アメリカの場合、金融・不動産セクターのみならず、個人もバブルに踊りまくりました。