この連載は、筆者の作品群の中でも特別の位置を占めている。当初は、1991年8月のソ連守旧派による未遂に終わったクーデター事件に関連し、31歳だった当時の筆者がモスクワの日本大使館から東京の外務本省に宛てて送った公電(外務省が公務で送る電報)が、2022年12月に外務省により公開されたので、それに関する解説を行うつもりだった。公電の数が多く、その解説だけで1年以上かかった。
その過程で、筆者の連載方針が少し変化した。公電で報告できなかった周辺事情について記すことにした。
筆者の場合、ほかの人と比べて記憶力が若干いい。それにより外交官や作家の仕事が進めやすくなることがある。もっとも、嫌な記憶も精確に残っているので、つらい面もある。筆者の記憶は映像方式だ。何かについて思い出すと、その場の情景が浮かんでくる。すると、頭の中に出てきた人がしゃべり出すのだ。同時に、会話をしながら何を考えていたかという記憶がよみがえってくる。時間にすれば1秒以内に脳内に再生された記憶を文字にすると、この連載の4~5回分になることがある。
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