〈インタビュー〉垂秀夫・前中国大使「尖閣問題で日本はアメリカに裏切られた」「もはや中国に対日政策はない」/習氏の足元の政権基盤をどうみる?

――トランプ大統領の登場で世界の情勢は大きく変化しました。
誤解を恐れずに言えば、トランプ氏の再登場で、米中ロの新たな「三国志演義」が始まった。3つの大国が自国の利益だけを追求し、法の秩序を省みない。トランプ氏の関税戦は明らかなWTO違反であるし、ロシアのウクライナ侵攻は帝国主義時代に戻ったかのようだ。
中国は現在の国際秩序は合理的でも公正でもないとして、秩序再構築の必要性を訴えている。そもそも中国の外交理念は「主権尊重」「領土保存」のはずだが、ウクライナに侵攻するロシアには口をつぐんでいる。
アメリカに何度も煮え湯を飲まされてきた
――新たな三国志の時代に突入しているのだとして、日本はどのように対処すべきだと考えますか。
いま一度国益に基づいた外交を行う意識を徹底すべきだ。日米同盟を外交の「基軸」として重視するのはいいが、対中政策において日本はアメリカに歴史的に何度も煮え湯を飲まされてきたことも忘れてはならない。
第1に1972年のニクソン大統領の電撃訪中は「ニクソンショック」と言われた。さらに1989年の天安門事件の際も、アメリカは政府高官の交流禁止を決めたが、裏で密使を送り最高実力者の鄧小平氏と接触していた。アメリカのこうした動きは同盟国日本にはいっさい知らされていなかった。
1995~1996年の第3次台湾海峡危機においても、1996年夏にアメリカは大統領補佐官を中国に派遣し、対中政策を180度転換した。翌1997年江沢民氏が訪米した際には真珠湾の戦艦アリゾナ記念館を訪問するような演出を許し、ワシントンで米中「戦略的建設的パートナーシップ」を表明した。1998年にクリントンが訪中した際には日本に立ち寄ることはなく、「ジャパン・パッシング」とも揶揄された。
最近では退任間際のバイデン大統領が日本製鉄のUSスチール買収を阻止した。バイデン氏は安全保障上の理由を挙げたが、同氏は自由と民主主義の価値観を共有する同盟国との関係を重視する姿勢をとってきたのではなかったのか。そうした仕打ちを受けながらも、日本政府からは大した抗議もなかった。