有料会員限定

〈インタビュー〉垂秀夫・前中国大使「尖閣問題で日本はアメリカに裏切られた」「もはや中国に対日政策はない」/習氏の足元の政権基盤をどうみる?

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

有料会員限定記事の印刷ページの表示は、有料会員登録が必要です。

はこちら

はこちら

縮小
垂 秀夫(たるみ・ひでお)/前・駐中国大使。1961年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。1985年外務省入省。在中国大使館1等書記官、香港領事、財団法人交流協会台北事務所総務部長、アジア大洋州局中国・モンゴル課長、在中国大使館公使、官房総務課長、領事局長、官房長などを歴任。2006年には日中戦略的互恵関係の構想を発案。2020~2023年駐中国大使。立命館大学教授(撮影:梅谷秀司)
「中国が最も恐れる男」と評された垂秀夫・前駐中国大使。中国政府に幅広い人脈を有し、ときに誰よりも早く機密情報を入手し、ときに中国政府の理不尽な恫喝にも毅然と対処してきた。その外交官人生を振り返るのが、『日中外交秘録』(文藝春秋刊、聞き手・構成は城山英巳)。外交官人生38年に遭遇した、知られざるエピソードが満載だ。その垂氏に、トランプ時代の米中関係や日中関係、台湾情勢などについて聞いた。

――トランプ大統領の登場で世界の情勢は大きく変化しました。

誤解を恐れずに言えば、トランプ氏の再登場で、米中ロの新たな「三国志演義」が始まった。3つの大国が自国の利益だけを追求し、法の秩序を省みない。トランプ氏の関税戦は明らかなWTO違反であるし、ロシアのウクライナ侵攻は帝国主義時代に戻ったかのようだ。

中国は現在の国際秩序は合理的でも公正でもないとして、秩序再構築の必要性を訴えている。そもそも中国の外交理念は「主権尊重」「領土保存」のはずだが、ウクライナに侵攻するロシアには口をつぐんでいる。

アメリカに何度も煮え湯を飲まされてきた

――新たな三国志の時代に突入しているのだとして、日本はどのように対処すべきだと考えますか。

いま一度国益に基づいた外交を行う意識を徹底すべきだ。日米同盟を外交の「基軸」として重視するのはいいが、対中政策において日本はアメリカに歴史的に何度も煮え湯を飲まされてきたことも忘れてはならない。

第1に1972年のニクソン大統領の電撃訪中は「ニクソンショック」と言われた。さらに1989年の天安門事件の際も、アメリカは政府高官の交流禁止を決めたが、裏で密使を送り最高実力者の鄧小平氏と接触していた。アメリカのこうした動きは同盟国日本にはいっさい知らされていなかった。

1995~1996年の第3次台湾海峡危機においても、1996年夏にアメリカは大統領補佐官を中国に派遣し、対中政策を180度転換した。翌1997年江沢民氏が訪米した際には真珠湾の戦艦アリゾナ記念館を訪問するような演出を許し、ワシントンで米中「戦略的建設的パートナーシップ」を表明した。1998年にクリントンが訪中した際には日本に立ち寄ることはなく、「ジャパン・パッシング」とも揶揄された。

最近では退任間際のバイデン大統領が日本製鉄のUSスチール買収を阻止した。バイデン氏は安全保障上の理由を挙げたが、同氏は自由と民主主義の価値観を共有する同盟国との関係を重視する姿勢をとってきたのではなかったのか。そうした仕打ちを受けながらも、日本政府からは大した抗議もなかった。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD