《若手記者・スタンフォード留学記 23》アメリカで分かった中国人とのつきあい方

拡大
縮小


スタンフォード生活においても、今まで、照れ屋な中国人には会ったことがありません。授業でも、質問を積極的にしますし、ガツガツ本音で議論する傾向にあります。

こうした、日本人にはない大胆さをもった異分子を日本に多く取り込んでいけば、大きな化学反応が起きるはずです。ソフトブレーン会長の宋文洲さんが好例ではないでしょうか。私は、宋さんが、日本人が避けがちなテーマを取り上げ、日本人とは違う角度から意見を述べてくれたことによって、多くの日本人の思考が活性化されたと思います。言論界にもビジネス界にもあと100人くらい宋文洲さんがいてもいいと感じています。

第3に、戦略的思考に長けていて、全般的に思考のスケールがでかい。

中国はそもそも「世界の中心の国」という意味ですから、自国を中心に世界を俯瞰するDNAがあるのかもしれません。アメリカに通じるところがあります。

一方、日本は、いまのところ、国際政治学や国際関係学はもっとも現代の日本人に適正のない学問だなと常々感じます(明治期の日本人は鋭い国際感覚をもっていたので、この弱点は日本の宿命ではないはずです)。

政治でも、ビジネスでも、全体像を頭に叩き込んだ上で、合理的に利害を計算し、明確な戦略の下に動く--こうした日本人が苦手な特性を中国人は備えています。きっと、経営者や金融業は、全般的に、中国人の方が日本人より向いている気がします。

アメリカより日本を選ぶ中国人

とはいえ、「日本に優秀な中国人は来ないのではないか。一番優秀な学生はアメリカに行くのではないか」という声も強いかと思います。

でも、私の知る範囲では、「日本で働きたい、日本で勉強したい」という友人は思いの外多くいます。たとえば、スタンフォードの都市工学の博士課程にいる友人の一人は、「本当は日本の方が好きだけど、奨学金の関係でスタンフォードを選んだ」と言っていました。

この例に限らず、条件さえよければ、スタンフォードよりも日本の大学を選ぶ中国人もたくさんいるはずです。中国人にとって、日本語は英語より簡単ですし、故郷から近いですし、食事・文化面でも共通点は多くあります。

たとえば、日本の大学の学生を1割ぐらい中国人にして、授業は半分英語にして、日本人と競争させてみてはどうでしょう。英語も日本語もできて、その上、成績も日本人よりいい--そんな中国人学生が回りにたくさんいたら、きっと日本人学生のお尻にも火がつくはずです。そして、日本企業はそうした優秀な中国人留学生を積極的に雇って、中国市場攻略のキーマンに育て上げればいい。

いかに優秀かつ、良い意味で空気の読めない中国人に日本社会で活躍してもらうか--それが、今後の日本繁栄の大きなカギになるのではないでしょうか。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

 

《若手記者・スタンフォード留学記》バックナンバー
(40)さよならスタンフォード、ただいま日本 - 09/06/17
(39)ニッポン国力増進計画 - 09/06/11
(38)既得権益”崩壊は、マスコミ人の働き方をどう変えるか? - 09/05/29
(37)今の日本は敗戦間近の1940年に似ているのかもしれない - 09/05/22
(36)米国・EU・日本・中国・ロシア・インド--世界6大国の戦力を分析する - 09/05/19
(35)アメリカは巨人、日本はソフトバンク--プロ野球を通して考える国際政治 - 09/04/29
(34)中国経済は、短期中立、中長期では悲観?(下) - 09/04/23
(33)中国経済は、短期中立、中長期では悲観?(上) - 09/04/16
(33)中国経済は、短期中立、中長期では悲観?(上) - 09/04/16
(32) バラバラの中国人を束ねる、イデオロギーは存在するのか? - 09/04/08
(31)中国研修旅行-厳しい北京の環境と、内向きなアメリカ人学生 - 09/04/03
(30)WBCナマ観戦で感じた侍ジャパン応援団の課題 -2009/03/23
(29)スタンフォードで体得した! 効率よく知力を鍛える勉強法 -2009/03/12
(28)留学するなら、2年間がちょうど良い -2009/03/05
(27)”政治”を志す若者に就職活動のアドバイスをするとしたら -2009/02/26
(26)アメリカで盛り上がる、日米“バブル崩壊”比較論 -2009/02/18
(25)韓国留学バブル崩壊! ニッポンの若者よ、留学するなら今がチャンス - 09/02/12
(24)日本の戦後史はあまりにも面白くない -2009/02/05
(23)アメリカで分かった中国人とのつきあい方 -2009/01/28
(22)スタンフォード学生も四苦八苦! 大不況下の「就職活動」 -2009/01/22
(21)米国の知識層を充実させる知的職業の豊富さ -2009/01/14
(20)激動の2009年。「私の予測」と「私の目標」 -2009/01/08
(19)15カ月ぶりの日本で感じたこと -2008/12/26
(18)アメリカ式教育の、強みと弱み -2008/12/17
(17)私が日本の未来を悲観しない理由。オシャレで有能な日本の若者がたくさんいるから -2008/12/11
(16)“英会話”は二の次でいい。本当に大事なのは“英作文力” -2008/12/03
(15)最新メディア事情。新聞は壊滅。でも、雑誌は頑張っている -2008/11/26
(14)ヒロシマ、ナガサキは本当に必要だったのか? 米国で再燃する『原爆』論議 -2008/11/19
(13)ブッシュ大統領と意外と似てる? オバマ新大統領を性格診断してみると -2008/11/12
(12)夫婦留学のススメ、妻が帰国して痛感するありがたさ -2008/11/05
(11)アメリカで考える、日本の雑誌とジャーナリストのこれから -2008/10/28
(10)快楽のないアメリカ文化、成熟国家の若者には物足りない? -2008/10/21
(9)金融危機に、アメリカ時代の終わりを感じる -2008/10/16
(8)内側から見たアメリカの大学と学生--”見掛け倒し”と”本当にすごい”ところ -2008/10/07
(7)先進国でトップ。アメリカの高い出生率の秘密 -2008/09/30
(6)オバマでもマケインでも変わらぬ対中融和政策 -2008/09/24
(5)急増する韓国人学生に感じる“たくましさ”と“わびしさ” -2008/09/16
(4)保守派の愛国心、リベラル派の愛国心 -2008/09/10
(3)日本人の英会話を改善する3つのヒント -2008/09/03
(2)学歴とコネづくりに奔走する米国エリート学生たち -2008/08/29
(1)中国人と一緒に観戦する北京オリンピック -2008/08/21

 

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【逆転合格の作法】「日本一生徒の多い社会科講師」が語る、東大受験突破の根底条件
【逆転合格の作法】「日本一生徒の多い社会科講師」が語る、東大受験突破の根底条件
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT