《若手記者・スタンフォード留学記 20》激動の2009年。「私の予測」と「私の目標」
世の中には、「専門知識を磨け」という言葉が溢れています。もちろん突出したスペシャリストの需要は高いですが、今、本当に必要とされ、価値があるのは、一流のゼネラリストではないでしょうか。
一つの例がサッカー。オシムは「ポリバレント(多能)」という言葉を使いましたが、新しい戦術が次々と生み出される現代サッカーでは、一つのポジションしかできない選手は生き残れません。
たとえば、ドイツ1部リーグのヴォルフスブルクに所属する長谷部誠選手は、本職のミッドフィールダー(MF)としてレギュラーから外れたものの、右サイドバックとして結果を残し、評価を上げています。一方、中田英寿選手は、若い頃、攻撃的MFであれだけ活躍したのに、守備的MFや右MFにコンバートした監督の期待に応えられず、輝きを失ってしまいました。
変化の激しい時代には、多能であることがチャンスを広げる--これは、ビジネス全般にも当てはまるのではないでしょうか。
日本が、海外に比べて弱いセクターは、政治家、経営者、ジャーナリストですが、この3つの仕事に要求される能力は、高い総合力です。個人的に、「見識があるな」と感じる政治家やジャーナリストの経歴を調べると、オックスフォードやケンブリッジで、古典や歴史やPPE(政治・哲学・経済)を専攻した人物が多いことに気づきます(アメリカに多いロースクール出身の政治家は個人的にはあまり好きではありません)。
私も、一流のゼネラリストになるべく、6月までは大学院で政治経済の勉強に励むとともに、一年を通して、以下の3つをテーマにして、「心技体」を鍛える計画です。
1)中国語の勉強をスタートする。
まず“技”という点では、中国語の勉強です。「英語もまだおぼつかないのに大丈夫?」と心配されそうですが、中国大使館の外交官曰く、「日本人にとって中国語は結構簡単」らしいですので、ひとまずチャレンジしてみたいと思います。
留学前は、中国語に対する興味はゼロだったのですが、中国関連の勉強を進めるうちに気持ちが変わりました。
先学期、「中国の10年後を予測する」という課題があり、中国関連の書籍や論文を読み漁ったのですが、やはり英語と日本語の文献を読むだけでは、どうも分析にバイアスが生じている感じがします。
実際、海外の日本研究を読んでみても、日本語を読める外国人の分析と、英語の文献のみに頼った分析は、やはり深みが違います。基本的に、英語に訳されている日本語の文献は左翼的なものが多いため、海外の日本研究者の見解はリベラル色が強いのです。左右の論者の意見に目を通した上で、リベラルな結論に至るのはOKなのですが、そもそも、右の意見に触れていないというのは問題です。
中国の専門家になりたいとも、なれるとも思っていませんが、基礎知識と最新情報を抑えて、中国の動向については、常にレベルの高い見識を持っていたいと思います。
2)早寝・早起き・プール通い
次は、心技体の「体」です。
最近まで、健康志向は少しバカにしていたのですが、考えを改めました。
昨夏より、プール通いを始めた効果は顕著で、持病の腰痛は消えるし、勉強の集中力も格段にアップしました。やはり、基礎体力がないと、勉強でも仕事でも、「今日は眠いし、きついから、止めてしまおう」という風に、あと一歩の粘りが効かなくなります。
たとえば、村上春樹氏は、小説家に必要な要素として、「才能と集中力と持続力」を挙げています。そして、集中力と持続力は後天的に鍛えることができ、とりわけ大事なのは、肉体的な耐久力であると示唆しています(『走ることについて語るときに僕の語ること』文芸春秋:ところで、村上さんは若く見えますが、今年還暦を迎えるんですね)。
私は小説家ではありませんが、学者や、売文を生業とするジャーナリストにも似た面があるはずです。望むらくは、50代まで、体力面の妥協をせずにしっかりした仕事ができるよう、健康面の土台を今から作っておきたいと思います(もちろんマッタリした時間も確保し、酒もがつがつ飲み続けますが(笑))。
3)茶道を習い始める
最後に「心」を鍛えるためのトレーニングは茶道です。幸い、妻と義母は茶道歴が長いので、6月の帰国後、早速、茶道を習いはじめるつもりです。心を和ませる時間を確保し、口だけでなく、身振りで日本の伝統を語れる何かを身に着けたいと願っています。
「三十にして立つ」。今年は、それを実現できるような、一年にしたいと思います。
佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。
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