《若手記者・スタンフォード留学記13》ブッシュ大統領と意外と似てる? オバマ新大統領を性格診断してみると

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 3)ジェファソニアン(トーマス・ジェファーソン第3代大統領に由来)

定義:孤立主義。国内政策を対外政策よりも重視する。アメリカの民主主義を守るための最善の方法は、他国に干渉したり、自らの価値を押し付けたりしないことである。

例:ジョージ・ケナン(外交官)、ウォーター・リップマン(ジャーナリスト)

4)ジャクソニアン(アンドリュー・ジャクソン第7代大統領に由来)

定義:ポピュリスト、かつ、ナショナリスト。複雑な世界の構造をシンプルに眺める傾向あり。国益のためならば、武力行使を厭わない。

例:ロナルド・レーガン(1981-89)、ジョージ・W・ブッシュ(第2期目)(2005-09)、ジョン・マケイン

この4つのカテゴリーの中で、オバマ氏はどのタイプに当てはまるでしょうか?

私の考えでは、左派のウィルソニアンです。

ある意味では、最も対極に位置するように見える、ブッシュ現大統領とオバマ次期大統領は、右・左の違いはあるにせよ、理想主義的であるところはすごく似ています(ブッシュ大統領は、2期目にはネオコンと決別し、むしろ、ジャクソニアン的になりましたが)。そもそも、ネオコンは民主党の左派に源流がありますから、それも当然かもしれません。

左派ウィルソニアンの直近の先輩は、1977年から81年まで首相を務めたジミー・カーター氏です。ただ、彼の”人権外交”はさしたる効果を上げられず、それまで友好国だったイランを、今日にまで至る、アメリカの頭痛の種に変えてしまいました。こうした事情もあり、マケイン陣営は「オバマは新しいカーター」だと、キャンペーン中も揶揄していました。

今週のエコノミスト誌(The Economist, November 8th-14th, ”Obama's world ”)も、オバマ氏に期待を寄せつつ、「大国同士の間にもはや競合関係は存在しない」というオバマ氏の理想主義的な認識には疑問を投げかけています。「むしろ世界は、大国の利害がぶつかりあう19世紀の世界に回帰している」というのが同誌の主張です。

たとえば、同誌が記事中で引用している、外交評論家のロバート・ケーガン氏は、著書の中で、「アメリカは唯一の超大国で留まり続ける。だが、ロシア、中国、ヨーロッパ、日本、インド、イランなどの大国とともに競い合う時代が再び帰ってきた」と語っています。(『The Return of History and the End of Dreams』(歴史の回帰と夢想の終焉)未邦訳)

しかしながら、オバマ氏は、イデオロギーにどっぷり漬かった、頑迷な理想主義者だとは思えません。

メディアに出てくるオバマ氏の知人は、口をそろえて彼を「プラグマティスト、リアリスト」と呼びます。自らの理想におぼれて、失敗するタイプには見えません。『フォーリン・アフェアーズ』の自身の論文でも、必要とあらば、軍事力の行使はためらわない旨をはっきり語っています。ブッシュ氏よりも、国連や同盟国との連携を重視するが、武力行使に消極的になるわけではない、ということでしょう。

たとえば、中国について言うと、第6回「オバマでもマケインでも変わらぬ対中融和政策」でも書きましたが、人権の旗を掲げて、急に中国に厳しくなったりすることはないでしょう。北朝鮮のテロ指定国家解除をオバマが支持したのも、拉致問題を含む人権うんぬんよりも、核拡散を防ぐことがアメリカの国益にとって最優先だと、現実的に考えているからでしょう。

決断の仕方は、クリントンに似いてる

では、彼のマネジメントスタイルはどうでしょうか?

CNNの『GPS』という番組で、ルービン元財務長官は、オバマ氏について、次のように語っていました。

「彼は、クリントン元大統領と決断に対するアプローチがとても似ている。すべての事実を集めた上で、それぞれの長短や確率をじっくり見極めた上で、判断を下す。ユーモアのセンスがあるところも、年齢の離れている相手とも違和感なくコミュニケーションをとれるところもクリントン氏にそっくりだ」

オバマ氏もクリントン氏も二人とも、弁護士の出身ですし、妻がともにロースクール時代の同級生です。また、2人には、実父と幼くして離別している、という共通点もあります。オバマ氏の両親は彼が3歳のときに離婚。クリントン氏の父親は彼が生まれる3カ月前に交通事故で死亡しています。気性の荒さという点では、大きな違いがありそうですが(オバマ氏の長年の友人は、「彼が感情的になって怒ったのを見たことがない」とテレビで語っていました)、マネジメントのスタイルはクリントン氏とかなり似ているようです。

アジア、メキシコ通貨危機を切り抜けた、クリントン流の意思決定は、オバマ政権でもうまく機能するのか--未曾有の金融危機に立向う、オバマ新大統領のお手並みを拝見するのが、今から楽しみです。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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