《若手記者・スタンフォード留学記 10》快楽のないアメリカ文化、成熟国家の若者には物足りない?
ある友人は、「車に乗らずに、ぶらっと居酒屋に寄って、酒をあおった後に、ラーメンを食う。それがない生活は、1年が限界だ」と語っていました。私はそんなにラーメン好きではないですが(笑)、気持ちはよくわかります。
日本とヨーロッパの類似性
もちろん、アメリカファンの方には、「あなたの話は、西海岸だからだろう」と反論されそうですが、旅行した経験から言うと、東海岸生活も性に合いそうにありません。ニューヨークやボストンの寒さは、九州生まれの私にはきっと耐えられませんし、アメリカの都会生活は、金がない貧乏学生には酷です。個人的には、ロンドンの方が断然面白い(こちらも物価は高いですが...)
私の嗜好が、若者の最大公約数とはいえないでしょうが、「今の若者は、よっぽど明確な目標がない限り、貴重な時間とお金を投じてまで、留学はしないだろうな」と納得する今日この頃です。アメリカの高等教育のレベルの高さには、驚かせられますが、日本でもやる気と覚悟さえあれば、知的な生活を送ることは充分可能です(最近は、MITなどが、一部の授業の内容をウェブ上で無料公開しています)。
つまるところ、日本人留学生の減少は、日本を発展途上国としてみると、嘆くべき出来事ですが、成熟国家としてみると、当然の成り行きといえるわけです。
そもそも、ドイツ人やフランス人の学生が、アメリカへの留学生が減っていることを嘆くでしょうか?答えは「否」でしょう。
ここ15年程度、英国、ドイツ、フランスからアメリカへの留学生は、英国が7000~8000人、ドイツが8000~9000人、フランスが6000~7000人の範囲を上下しているだけで、大きな変化はありません。ただ、「留学生を増やさなければ」といった懸念の声をヨーロッパ人から、ついぞ聞いたことがありません。
ヨーロッパからの留学生と話すと、東欧圏から来た人間はアメリカに残りたがる傾向がありますが、西欧圏の学生は、「ヨーロッパの生活のほうが楽しい、早く帰りたい」という反応が多数派です。
日本人の若者は、ある意味、ヨーロッパの若者のようになってきているのでしょう。梅棹忠夫氏が指摘したように、日本文明は西ヨーロッパの文明と共通するところが大きいのかもしれません。日本人の留学生も、これから数年さらに減ったあと、ヨーロッパ諸国のように、一定の水準で落ち着くようになるのではないでしょうか。
内向きになるのは、悪いことばかりではない
私自身、留学すること自体には、大いに賛成です。そして、海外に対して目を開くことは、日本にとって、かつてなく重要になっています。ただ、一部の経済学者が繰り返す「日本人留学生減少→それは日本の若者が内向きになったから→日本の国際競争力は衰える→日本の将来は暗い」といったステレオタイプな議論には同意しかねます。
今、ロサンゼルスで映画プロデューサーの修行をしている友人はよく「国は成熟するにつれ、内向きになる」と言います。日本で、ハリウッド映画が失速し、邦画が復権していきているのも、その一つの現れかもしれません。
人間の人生に「攻めるとき」と「守るとき」があるように、国にもバイオリズムがあります。今の日本は、戦後からバブル期までのイケイケドンドンのときを終え、一歩立ち止まって内省するときを迎えているのでしょう。
今の内向きの傾向をただ嘆くのではなく、自分の歴史や自画像を見つめなおす、よい機会として、ポジティブにとらえてはどうでしょうか。その内省期間は、きっと、将来の礎となるはずですから。
まあ、つらつらと語ってしまいましたが、私は将来、仕事以外の理由で、アメリカに来ることはないと思います。娯楽がないからです。とはいえ、あと1年は、日本への郷愁を断ち切り、ひたすら修行僧生活にひたりたいと思います(笑)。
佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。
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