バラバラの中国人を束ねる、イデオロギーは存在するのか?《若手記者・スタンフォード留学記 32》
人口が多いこともあるでしょうが、中国人は全世界のあらゆる国に繰り出し、チャイナタウンを作って、現地に溶け込むのがうまい。カメレオンみたいなところがあります。中国という場や国籍への拘りの薄さは、中国人の世界での活躍を支えているともいえますが、逆に言うと、中国という国家に、帰属意識を持たせることを難しくしているともいえます。
もう一つ、中国の団結心の障壁となりかねないのが、格差です。
「中国は格差が拡大していて、それが大きな社会問題である」とはあらゆるメディアで報道されていますが、今回の旅では、それを肌で実感できました。
仕立ての良いスーツを着て、完璧な英語で、優雅に国家戦略を語る外交部副部長や、美しいドレスに身にまとい、ペニンシュラホテルでティファニーのパーティーに出席する若い女性がいると思えば、鼻くそをほじりながら食堂で飯を食っているおじさんや、欧米人を見るのも初めてで、私のアメリカ人のクラスメイトに「一緒に写真を撮って」とせがむ、田舎から観光にやってきた夫婦がいる。
以前、上海育ちの中国人の友人が、田舎の中国人のことを「あいつらはモブ(群衆)だ」とバカにしていましたが、上澄みの中国人が、田舎の貧乏な中国人を、同じ国民、同士であると思っているかどうかは疑問です。中国に限らず、あまりにも大きな格差は、社会的な団結力、統合力を弱めることは確かでしょう。
多様な民族を抱え、格差が大きくて、個人主義的で、国という枠への拘りがなく、ナショナリズムが未熟な中国。強調したいのは、そんな中国を、経済成長という大目標を失った後にまとめあげるのは、至難の業であろうということです。
共産主義が力を失いソ連は崩壊しました。自由、民主主義、アメリカンドリームという理念によりアメリカはどうにか多様な民族をまとめあげています。では、中国はどうするのか? 高度経済成長期が終わりを告げようとしている今、中国には、政治経済面のみならず、イデオロギーという面でも、大きな試練に直面しているように見えます。
佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。
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