米国・EU・日本・中国・ロシア・インド--世界6大国の戦力を分析する《若手記者・スタンフォード留学記 36》

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日本の国土は狭い。でも、海はでかい

最後に、国土の広さと豊かさです。

飛びぬけて国土がでかいのはロシア、そして、飛びぬけて国土が狭いのは日本、その差は実に46倍です。日露戦争の日本の勝利に世界が驚嘆したのもうなずけるところです。

ただ、国土も広ければいいというわけではありません。より重要なのは、土地の豊かさと資源の量です。

たとえば、中国は世界第2位の国土を誇りますが、耕作可能な土地は、国土の15%に過ぎません(インドは、国土の54%が耕作可能)。ロシア・アメリカに比べると天然資源にも恵まれておらず、中国の1人当たりの天然資源は、世界平均の半分以下です。

さらに、国土の広さは、隣接する国を増やし、防衛費を膨張させるというマイナス面もあります。中国は14カ国と国境を接しているうえ、チベット、ウイグルの反体制分子、国内の暴動、台湾有事に備える必要があるため、どうしても軍事費はかさんでしまいます。家が広いと、メンテナンスに時間とコストがかかるのと同様、国が広いのも大変です。

その点、アメリカは、左右を海で囲まれ、上下を友好的な国に挟まれている世界一巨大な島国です。そして、自然や土地が豊か。カリフォルニアに住んでいても、アメリカは”神に祝福された”土地だな、とつくづく感じます。

つまり、ロシア、アメリカの場合、国土の広さは、土地・資源の豊富さとあいまって、国力の基礎となっていますが、中国の場合は、その恩恵は限られます。

加えて、国土を陸地だけで見るのも誤りです。

日本は、国土は狭いですが、領海、排他的経済水域の広さは世界6位です。つまり、海を含めて見ると、国土は大きいわけです。したがって、もし巨大な海底油田が見つかったり、海を利用した新エネルギー開発(海の藻を利用したバイオ燃料など)が実用化されたりすれば、日本が一転、資源国となる可能性もあるわけです。イノベーション次第で地政学のルールは変わります。

以上6大国の国力を分野別に見てきましたが、最後に、それらを総合するとどうなるか、考えて見ます。

経済力を重視すれば、順位は、アメリカとEUがガチンコで、日本、中国、ロシア、インドが続く形。一方、軍事力を重視すれば、アメリカが頭一つ抜けて、EU、中国、ロシア、日本、インドの順となるでしょう。

日中の比較について言うと、経済、ソフトパワーで日本に軍配。人口、国土では中国に軍配。軍事力、政治力では引き分け。総合では、ほぼ同じくらいの国力といえるのではないでしょうか。

以上の分析に基づいて、次回からは、前回のコラムでお約束したとおり、「では日本は国力を増進するために、どうすればよいのか」について、考えてみたいと思います。


佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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