《若手記者・スタンフォード留学記 4》保守派の愛国心、リベラル派の愛国心

拡大
縮小

 

一方、スタンフォードは保守派のシンクタンクの殿堂「フーバー研究所」があるだけに、リベラル派一色というわけではないのですが、「私はオバマよりはマケインの方が好きだ」とは言いにくい雰囲気があることは確かです。以前、ブッシュ政権の国防長官を務めたドナルド・ラムズフェルド氏が、フーバー研究所のフェローに指名された際は、その決定に反対する抗議運動が大学で盛んでした。

では、なぜカリフォルニアやニューヨークでは、リベラル派が多いのでしょうか。その理由は、「人種が多様であるから」の一言に尽きます。

移民に対する、保守派の一般的な考え方は「移民を受け入れると、アメリカの伝統が汚されるおそれがある。移民はアメリカの社会・伝統に同化するように努力すべきだ」というものです。

それに対して、リベラル派は移民に寛容ですから、無理な同化を迫らない。よって、自分自身や両親や近い先祖が移民である人々は、自然と民主党に傾いていくわけです。ある民主党支持の友人は「アメリカは伝統や歴史がないのに、共和党のように伝統を強調するのは矛盾しているでしょ」と、保守派をチクリと批判していました。

ただ、オバマ氏の事務所でインターンをしたこともある友人はこう語っていました。「確かに、若いうちはリベラルの理想に惹かれる。しかし、年を重ねてお金持ちになるにつれ、共和党に流れて行く人も多い」と。

リベラル派は、その理想に「平等」という言葉を掲げますので、それがあくまで「機会の平等」を意味していても、格差是正へと政策が偏っていきます。日本の民主党と同じく、労働組合が支持母体なだけに、「保護貿易を強化せよ」、「累進課税を強めよ」といったアピールに傾きがちです。事実、オバマ氏も、大企業のCEOやヘッジファンド関係者の高給を盛んにやり玉にあげています。

しかし、そうした政策は、お金持ちになったリベラルにとっては、嬉しくない話です。その代わりに、「政府の介入はできるだけ排除する」という保守派の思想が魅力的になってくるわけです。どうせ恵まれない人に奉仕するなら、税金で分捕られるより、自分で自由に寄付をさせてほしい、と考えるのは自然でしょう。

きっと、スタンフォードを卒業するアメリカ人は、将来、お金持ちになる人が多いはず。現在、リベラル的な愛国心を抱く学生の何割が、お金持ちになった後も、その理想を抱き続けられるのか。その将来を見るのが楽しみです。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

 

《若手記者・スタンフォード留学記》バックナンバー
(40)さよならスタンフォード、ただいま日本 - 09/06/17
(39)ニッポン国力増進計画 - 09/06/11
(38)既得権益”崩壊は、マスコミ人の働き方をどう変えるか? - 09/05/29
(37)今の日本は敗戦間近の1940年に似ているのかもしれない - 09/05/22
(36)米国・EU・日本・中国・ロシア・インド--世界6大国の戦力を分析する - 09/05/19
(35)アメリカは巨人、日本はソフトバンク--プロ野球を通して考える国際政治 - 09/04/29
(34)中国経済は、短期中立、中長期では悲観?(下) - 09/04/23
(33)中国経済は、短期中立、中長期では悲観?(上) - 09/04/16
(33)中国経済は、短期中立、中長期では悲観?(上) - 09/04/16
(32) バラバラの中国人を束ねる、イデオロギーは存在するのか? - 09/04/08
(31)中国研修旅行-厳しい北京の環境と、内向きなアメリカ人学生 - 09/04/03
(30)WBCナマ観戦で感じた侍ジャパン応援団の課題 -2009/03/23
(29)スタンフォードで体得した! 効率よく知力を鍛える勉強法 -2009/03/12
(28)留学するなら、2年間がちょうど良い -2009/03/05
(27)”政治”を志す若者に就職活動のアドバイスをするとしたら -2009/02/26
(26)アメリカで盛り上がる、日米“バブル崩壊”比較論 -2009/02/18
(25)韓国留学バブル崩壊! ニッポンの若者よ、留学するなら今がチャンス - 09/02/12
(24)日本の戦後史はあまりにも面白くない -2009/02/05
(23)アメリカで分かった中国人とのつきあい方 -2009/01/28
(22)スタンフォード学生も四苦八苦! 大不況下の「就職活動」 -2009/01/22
(21)米国の知識層を充実させる知的職業の豊富さ -2009/01/14
(20)激動の2009年。「私の予測」と「私の目標」 -2009/01/08
(19)15カ月ぶりの日本で感じたこと -2008/12/26
(18)アメリカ式教育の、強みと弱み -2008/12/17
(17)私が日本の未来を悲観しない理由。オシャレで有能な日本の若者がたくさんいるから -2008/12/11
(16)“英会話”は二の次でいい。本当に大事なのは“英作文力” -2008/12/03
(15)最新メディア事情。新聞は壊滅。でも、雑誌は頑張っている -2008/11/26
(14)ヒロシマ、ナガサキは本当に必要だったのか? 米国で再燃する『原爆』論議 -2008/11/19
(13)ブッシュ大統領と意外と似てる? オバマ新大統領を性格診断してみると -2008/11/12
(12)夫婦留学のススメ、妻が帰国して痛感するありがたさ -2008/11/05
(11)アメリカで考える、日本の雑誌とジャーナリストのこれから -2008/10/28
(10)快楽のないアメリカ文化、成熟国家の若者には物足りない? -2008/10/21
(9)金融危機に、アメリカ時代の終わりを感じる -2008/10/16
(8)内側から見たアメリカの大学と学生--”見掛け倒し”と”本当にすごい”ところ -2008/10/07
(7)先進国でトップ。アメリカの高い出生率の秘密 -2008/09/30
(6)オバマでもマケインでも変わらぬ対中融和政策 -2008/09/24
(5)急増する韓国人学生に感じる“たくましさ”と“わびしさ” -2008/09/16
(4)保守派の愛国心、リベラル派の愛国心 -2008/09/10
(3)日本人の英会話を改善する3つのヒント -2008/09/03
(2)学歴とコネづくりに奔走する米国エリート学生たち -2008/08/29
(1)中国人と一緒に観戦する北京オリンピック -2008/08/21

 

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT