《若手記者・スタンフォード留学記 11》アメリカで考える、日本の雑誌とジャーナリストのこれから


 よく言われることですが、アメリカでは、実務とアカデミズムの世界の交流が本当に盛んです。私がこれまでに受講した授業を振り返っても、講師たちの職歴は、生粋の学者から、国連、IMFの研究者、CIA(中央情報局)のインテリジェンスオフィサー、NSC(国家安全保障会議)の高官、国務省のシンクタンクの研究者まで、実に多様です。

博士号をもった官僚、元営業マンのコンサルタント、大学教授出身のジャーナリストなどなど、実務の経験と、学問的な素養を兼備した人材が増えてくれば、自ずと「分析のプロ」の層が広がるはずです。

最近の、政治・経済に関するベストセラーが、佐藤優氏、高橋洋一氏といった元官僚から出ているのも、彼らが生の情報を持ちながら、物事を体系的にとらえる訓練ができているからでしょう(佐藤氏は神学の修士号を持ち、高橋氏は経済学の博士号を持っています)。

これから必要なジャーナリスト像

では、今後のジャーナリストに求められる素養とは何でしょうか?

もちろん、これからも、ジャーナリズムの役割は、新たなファクトを拾ってくることに変わりはありません。とりわけ、「権力の監視」というのは、ジャーナリズムの根源的な役割です。ボブ・ウッドワード、故デヴィッド・ハルバースタムに代表される、調査報道のプロは、これからもジャーナリスト像の中心となるでしょう。

ただし、インターネットによる部数・広告収入の減少を考えると、社会的な重要性は高くとも、収入に直結しない調査報道に金をかける余裕はどんどんなくなっていくかもしれません。夏休みに新聞社でインターンをした中国語専攻の博士課程の学生がこう嘆いていました。

「ジャーナリズムは社会にとって重要なもの。だけど、こんな安月給では人が集まってくるわけがない」と。ちなみに彼は、給料の安さと将来展望の暗さにショックを受け、ビジネススクールへの進学を考えているそうです。

2つ目の、未来型ジャーナリストの類型は、コラムニストです。新しい事実というよりも、新しい切り口、ストーリー性、わかりやすさによって勝負するジャーナリストです。

やはり、この類型の理想像は、ニューヨーク・タイムズのトーマス・フリードマン氏になるのでしょう。代表作である「フラット化する社会」「レクサスとオリーブの木」を読めばわかるように、彼は、面白いコメントやエピソードとともに、一見難解なテーマを噛み砕いて展開していくのが本当にうまい。そして、話の本筋とは関係のない、無駄なディテールが比較的少ない点も好感度大です(アメリカのジャーナリストのノンフィクションは、細かい話が多すぎて読むのが嫌になることが多い)。

そして、もう一つの彼の長所は、時代の風を読むセンス。彼の最新作のテーマは、環境問題。日本でもそのうち邦訳が発売されるでしょうが、最新作の『Hot, Flat and Crowded』はすでに全米でベストセラーになっています。世の中でホットなテーマを、本質を抑えた上で、面白おかしく説明する。こうしたニーズはこれからもますます高まるでしょう。

第3の選択肢は、アカデミズムとジャーナリズムの融合による道です。言い換えれば、アカデミック・ジャーナリストとして生きる道です。

その代表格は、このコラムでも度々言及している、外交ジャーナリストのファリード・ザカリア氏です。彼はハーバード大学で政治学の博士号を取った後に、「フォーリン・アフェアーズ」編集長を経て、現在ニューズウィーク国際版の編集長を務めています。彼の記事には、インタビューの引用はあまりなく、アカデミックな理論や歴史の知識を基に、自分なりの見方を披露していくという構成です。彼の記事には、新たな”事実”の発見はありませんが、新たな”考え方”の発見があります。

媒体で言うと、アカデミズムとジャーナリズムの融合をうまく体現しているのは、英「エコノミスト」誌でしょうが、同誌のようなスタイルは、いかんせん文体が堅く、日本で一般受けするとは思えません。

これからの日本に必要な雑誌は、「エコノミスト」誌を、よりストーリー性があって、読みやすい形に改善したような、雑誌なのではないでしょうか。レベルが高いのだけれど、小難しくなく、楽しく読める--そんな雑誌が日本に2,3誌出てくれば、日本はきっとより成熟した民主国家になるはずです。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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